こういう夜は

二階の自分の部屋でゆっくりと好きな映画でも見よう。

気分転換、

リラックスをすれば、気持ちも落ち着く。

さて、何を観ようか。

 

『検察側の罪人』

前から気になっていた映画の一つだ。

詳しいストーリーは知らないが、出演俳優に興味があった。

 

コーヒーを淹れて、ソファに座り、

ヘッドホンを装着して準備万端。

よし、鑑賞開始。

 

 

とある殺人事件の捜査を巡って、

二人の検事の正義がぶつかり合うという物語だった。

どういう展開になるのかと、

いつものように登場人物に感情移入しながら、

のめり込んで観ていた。

 

物語の中盤、

主役の一人の検事が、

検事という身でありながら人を殺してしまう、

という衝撃の展開に。

殺してはいけないのに、殺してしまった。

その事実に激しく動揺し、自分を見失い始める検事。

その役者さんの迫真の演技にググっと引き込まれる。

まるで本当に殺してしまったかのような凄まじい演技。

食い入るように魅入った。

 

人を殺した気分ってこんな感じなのか…。

 

引き込まれすぎた。

 

役者さん演じるその検事にシンクロしすぎてしまった。

 

ザワザワっと悪寒が走る。

血の気が引く。

全身が緊張で強張る。

狼狽えて動悸が始まる。

これは大変なことになると予期し、映画を急いで停止にした。

心臓の鼓動が異様に早い。

 

そのタイミングで、

いきなり五歳の長女が私の部屋に入ってきた。

 

「なにしてるの?」

ニコニコと無垢な笑顔で話しかけてきた。

 

娘の顔を見るなり、

自分の中の切れてはいけない頭の回線が、

ブツリと音を立てて切れた。

あり得ないことを想像した。

 

嫌だ、嫌だ! 

何を考えている!

 

こっちに来るな! 

来たらダメ! 下に行って!

 

娘を一階のリビングに行くように𠮟りつけ、

部屋から押し出した。

娘は何で怒られたのか分からず、

驚いた顔で半分ベソをかきながら降りていった。

 

何を考えた?

今、自分は何を考えた。

 

何が頭に浮かんだ?

なぜそんなことを考えた?

 

パジャマ姿の娘の細い首を

カッターで掻き切る映像が、頭の中で浮かんでしまった。

 

そのままトイレに駆け込み、激しく嘔吐した。

全身の震えが止まらない。

自分は人を、幼いわが子を殺してしまったのだ。

それを現実にあったこととして受け止めてしまった。

 

→次回に続く…

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