中濃ソース事件
愕然とした。
冷蔵庫の中をよく見ると、中濃ソースが二本、あるのだ。
普通、ソースをストックする場合、ウスター、中濃、どろ、の3タイプを各料理に順応させるべく、また、どれか一つでも賞味期限が切れてしまわないよう、バランスよく、日々の食卓で活用する。
所が、俺の冷蔵蔵には、中濃ソースが、中濃ソースだけが、二本。
「ええー!」
声が漏れてしまった。
「ええー!」
そしてもう一度。
こんなにはっきりと「ええー!」が漏れてしまうのは、絶対に断られないだろうという異性との会話の流れの中で「今度、飲みに行こうよ」を「いや、ちょっと」と断られた時以来だ。
ちなみに、このパターンは数多く経験しており、また、それについては、別の機会に語ることにしよう。そう、今回は中濃ソースだ。
割とあたたかい一月、午前とも、午後とも言えぬ曖昧な時間。
昨夜の安物の日本酒のにおいが、かすかに胃の底の方からただよい、不快感極まりながら、異常な空腹感をおぼえた俺は、寝ぼけ眼で台所に立った。
ご飯、しじみの味噌汁、納豆、レタス、シャケフレーク、かつお梅、焼き海苔、キューピーマヨネーズなどを準備し、熱々のフライパンに生卵を二個落として、岩塩、コショウを、リオのカーニバルよろしくフリフリ。
勝手に灼熱。
あっという間に、にっぽんの傑作映画中の傑作である、森田芳光監督の「家族ゲーム」のあやしいお父さん役の伊丹十三も納得できるくらいの、そこに唇をあてれば、なんだかエロチックにチューチューできる半熟の卵焼きを作った。
その変態的なレシピに飽き足らず、俺はそこに、チョイと中濃ソースでもかけちゃろかしらんと、腰を非常にクネクネさせながら、冷蔵庫をオープンした。
だが、その瞬間、
明らかに、冷蔵庫という食に満ち溢れた惑星の、すべての生態系を崩壊させるべき事態が起っていた。
そこには、ほとんど使われていない中濃ソースが二本・・・
いらない。
中にある、この惑星にある食材に、二本もいらない。
仮に新しい食材を投入したとしても、中濃ソースだけが余ってしまうのは目に見えている。
このままだと、賞味期限まで使いきれずに、捨てようと思い、囲ってあるダサいデザインのラベルを、剥がすスタートラインでしばし悩みながら、爪の先の感触で見つけて、一気にベリベリっと剥がし、本体のプラスチックの分別を考えながら、きっと、その時間は深夜で、明日、洗おうと思って放置されているいくつかの、油っぽい皿を一時、端に避け、わずかな隙間が出来た所から、ピンポイント、台所の排水溝に、まずくなったまま底に沈殿した中濃ソースの中身を、勿体ない、ああ、勿体ない、きゃりーぱみゅぱみゅのような心持ちで捨てなければならない。
なんなのだ、これは、なんなのだ。
どうしてこうも、中濃ソースに振り回されなければならないのだ。
どんよりする。
果てしなく、どんよりする。
俺は、どんよりしている。
愕然とした。
冷蔵庫の中をよく見ると、中濃ソースが二本、あるのだ。
普通、ソースをストックする場合、ウスター、中濃、どろ、の3タイプを各料理に順応させるべく、また、どれか一つでも賞味期限が切れてしまわないよう、バランスよく、日々の食卓で活用する。
所が、俺の冷蔵蔵には、中濃ソースが、中濃ソースだけが、二本。
「ええー!」
声が漏れてしまった。
「ええー!」
そしてもう一度。
こんなにはっきりと「ええー!」が漏れてしまうのは、絶対に断られないだろうという異性との会話の流れの中で「今度、飲みに行こうよ」を「いや、ちょっと」と断られた時以来だ。
ちなみに、このパターンは数多く経験しており、また、それについては、別の機会に語ることにしよう。そう、今回は中濃ソースだ。
割とあたたかい一月、午前とも、午後とも言えぬ曖昧な時間。
昨夜の安物の日本酒のにおいが、かすかに胃の底の方からただよい、不快感極まりながら、異常な空腹感をおぼえた俺は、寝ぼけ眼で台所に立った。
ご飯、しじみの味噌汁、納豆、レタス、シャケフレーク、かつお梅、焼き海苔、キューピーマヨネーズなどを準備し、熱々のフライパンに生卵を二個落として、岩塩、コショウを、リオのカーニバルよろしくフリフリ。
勝手に灼熱。
あっという間に、にっぽんの傑作映画中の傑作である、森田芳光監督の「家族ゲーム」のあやしいお父さん役の伊丹十三も納得できるくらいの、そこに唇をあてれば、なんだかエロチックにチューチューできる半熟の卵焼きを作った。
その変態的なレシピに飽き足らず、俺はそこに、チョイと中濃ソースでもかけちゃろかしらんと、腰を非常にクネクネさせながら、冷蔵庫をオープンした。
だが、その瞬間、
明らかに、冷蔵庫という食に満ち溢れた惑星の、すべての生態系を崩壊させるべき事態が起っていた。
そこには、ほとんど使われていない中濃ソースが二本・・・
いらない。
中にある、この惑星にある食材に、二本もいらない。
仮に新しい食材を投入したとしても、中濃ソースだけが余ってしまうのは目に見えている。
このままだと、賞味期限まで使いきれずに、捨てようと思い、囲ってあるダサいデザインのラベルを、剥がすスタートラインでしばし悩みながら、爪の先の感触で見つけて、一気にベリベリっと剥がし、本体のプラスチックの分別を考えながら、きっと、その時間は深夜で、明日、洗おうと思って放置されているいくつかの、油っぽい皿を一時、端に避け、わずかな隙間が出来た所から、ピンポイント、台所の排水溝に、まずくなったまま底に沈殿した中濃ソースの中身を、勿体ない、ああ、勿体ない、きゃりーぱみゅぱみゅのような心持ちで捨てなければならない。
なんなのだ、これは、なんなのだ。
どうしてこうも、中濃ソースに振り回されなければならないのだ。
どんよりする。
果てしなく、どんよりする。
俺は、どんよりしている。