成人式を迎えた頃の話。
“お酒が飲める歳になった”と鼻高々に、当時は友人や職場の大人に色んなお店へ連れて行かれ、日々お酒の勉強に励んでいた。
ある時、
『地方から休みの間戻ってきた。久しぶりに会おうか!』
学生時代によくつるんでいた、懐かしい友人から連絡があった。
『行くで!!』
久しぶりに会える期待と緊張に胸は高鳴っていた。
夕方、友人と合流し変わらぬ姿に安堵しつつも、大人になったと湧き立つ好奇心に押されて、入ったことのないワンランク上のお店に入ってみる事にした。
薄暗くムーディーな雰囲気の店内には、哀愁漂う見知らぬ老紳士や仕事帰りであろうとスーツ姿の綺麗な女性、まるで映画の中にいるような異世界感に、更に気持ちは高揚した。
友人と弾む雑談、場慣れした雰囲気のお客さんが飲むお酒をこっそり真似してみたり、楽しい時間があっという間に過ぎていった。
気づけばとっくに終電は終わっている。
友人は事前にとっていたホテルに戻って行った。
1人残った私は、普段なら漫画喫茶やカラオケなど、時間の潰せる近場の施設に入るのだが、この日に限っては清々しい気持ちのままでいたかった。
私は心の澄んだ気持ちのまま歩いて帰る事にした。
だが、それがいけなかった。
最寄りの駅から2駅離れた店から家に向かって歩き出した。どこか寂しげな澄んだ夜風で、酒で熱った体を冷ましながら、歩いて行った私は地図を見ることを忘れていた。
歩き始めてしばらく経ち、ふと気づくと見知らぬ風景。
『あら?ここはどこかしら?』
ほろ酔い気分の私は呑気に、気取った口調で独り言を呟いた。近くにある電信柱の住居表示を見ると、
見たことない住所。
ここで私は我に帰った。
急いで携帯をつけ地図を確認し、歩き始めた駅から逆方向に進み最寄駅から合わせて4駅分離れた場所にいることに、このとき初めて私は気がついた。
『最悪だ…。』
その時、時計はまだ深夜の2時半を過ぎた頃。
車一つ走っていない寝静まった住宅街。
酔いが一気に覚め、来た道をまた戻っていった。
方向音痴がさらに拍車をかけ、所々道を間違えて戻るを繰り返す。挙げ句、履いていたパンプスで靴擦れを起こし、途中から裸足で歩く始末。
やっとの思いで最寄駅に着いたのは、少し空が明るくなった午前5時ごろだった。
最寄り駅から更に30分ほど離れた自宅。もう家まで行く気力はなかった。
駅横の漫画喫茶に避難し、いつの間にかお昼まで寝入っていた。
この日以降、私は終電を逃しても決して歩く選択はせず漫画喫茶に入るようにしている。