行動遺伝学の本、もう5冊以上読んでるかもしれないけど

けっこうあの知見は、最近は、大事にして読んでいるところがある。

たとえば、人間行動に関して「ああすれば、こうなるはずだ。」式の思考をしていると

「親の指導力によって、子供の成績は伸びるはずだ。」

ということだと

「子供の成績が悪いのは親の指導力不足かドラ息子か」

あるいは

「親が適切な情操教育をすれば、子供の感性は豊かな立派な人間性に育つはずだ。」

ということだと

「他人のウケや印象のよくない子どもなのは、親の指導力不足か子どもがドラ息子か。」

あるいは

「親が適切な教育をすれば、子供は社会のルールがしっかり守れる人間に育つはずだ。」

ということだと

「子どもが犯罪を犯したのは、親の子育ての失敗か、子どもがドラ息子か。」

まぁ・・・・・・・

犯罪加害者家族の状況などをみると

実際は、ちゃんとやった普通の家庭なはずなのに、

思いもよらぬ結果になることはいくらでもあるのだけれども。

子どものあらゆる能力や特性というのは、そこまで親や家庭環境によって大きく変わってくるのかというと。

必ずしもそうとは言い切れないところがある・・・・・と感じるところもある。

まぁ、例えば、指名の子とかは・・・・・かなり難しい家庭環境に育って

4姉妹のうち、彼女以外は、かなり荒れていたけど、彼女だけは、めっちゃ普通に平凡に育って、穏やかに朗らかに過ごしている。

これは遺伝的な感性や性格特性も、かなり絡んでいる気がするけど。

行動遺伝学のエビデンスに依拠した研究結果では、基本的に、人間行動というものは

「ああすれば、こうなる、というものではない。」 

ことも明確に示している。

まぁ、人間行動というものは

「個々のさまざまな遺伝的背景に基づいて形成される感性や特性と、さまざまなあらゆる環境要因との複雑な相互作用の結果、偶発的に、ひとつの人間の判断やその結果の行動につながってくる。」

というような立場なんだけれども、

例えば、行動遺伝学者の安藤寿康氏はもともと教育学の畑だったから、学業成績に関してこれを掘り下げて研究してみたのだけれども

学業成績に関して言えば、50%が遺伝子の影響、5%が親の教育やしつけの影響、10%が本人の努力、残り35%の環境要因に関しても、数%しか影響しないような複数の雑多な要因によって左右されている、としていた。

まぁ、親の教育以外で、一番大きく左右している環境要因は覚えている範囲では「静かで落ち着いた家庭環境」というものだったのだけれども、それでも学業成績への説明率は確か5%くらいだったように記憶している。

うーーーーーーーーーーーーーーーーん。

安藤寿康氏が言っていたのは、子供がひとりしかいない家庭だと、自分の子育てに対する、子供の遺伝子の差異による違いにあまり気が付くことができないけれども、子供がいっぱい、いる家庭だと、特に意識的に育て方を変えたわけでもないのに、なんでこんなに子供の個性や育ちに違いがあるのか・・・・・そこで遺伝的特性の違いに初めて気が付く人もいる・・・・とのことだった。

うちの家庭はどうだったかというと

父親は、姉と俺に、「勉強しろ」というプレッシャーはかけていたけど、たまたま偶然、姉はそれで公立大学へ行って、自分は〇学部へ行く結果になったけれども、その経験だけで判断すれば、「プレッシャーさえかければ子供は勉強できるようになる。」なんて勘違いしたまま死んでいった可能性もあるけど。

人間の生まれ持っている知的能力は正規分布をしていて、生まれつき境界知能や知的障害の人もいるわけで、まぁ、双生児法による研究ではヒトの知的能力の7~8割は遺伝的に決定していて、統計的には偏差値35以下の人は約22%存在しているから、約5人に1人は、大学進学しろと強制したところで・・・・がんばってもFラン大学ということもありえる。

また、人間に遺伝的に備わっている特性や能力に関しては、一卵性双生児でもない限り、その分布の仕方は・・・・兄弟間の差異の程度は、母集団のそれとほぼ同じになることが、行動遺伝学の研究結果で分かっている。

だから、天才同士の遺伝子をかけあわせても、生まれてきた子どもの能力の分布は、一般社会という母集団の分布と同じような感じになると考えられるわけだよねぇ。多少は影響しないわけではないかもしれないけど、エンドウマメで何色同士をかけあわせたら何色しかできない的な(メンデルの法則が発見されたときのやつは、たまたまモノジェニックな要素が偶然からんでいたものだった)、そんなに強い影響があるわけではないのかもしれない。知能に関連する遺伝子については、モノジェニックなものではなくて、確か遺伝子といっても1万か所くらいの遺伝子が複合して一定の知的能力が形成されるといったようなポリジェニックなものらしいので、そうなると、生まれてきた子どもに関しては、母集団と同じくらい広がりのある正規分布になるのかもしれない。

だから、子どもの育ちが、親の期待どおりか、期待外れかというのは、親が子どもに何を期待しているのか・・・その時点の問題もあるし、あと、子供の育ちに対する親の教育の影響効果に関する、十分なエビデンスがない中では、安易に教育法の是非に関しては評価できないところもあるし、自分の子供にやったとおりにすれば、他人の子供もそうなるかというような科学的な再現性も評価できなければ、大部分のことが、たまたまの運や偶然に左右されている可能性も否定できない。

まぁ、覚えているのは、以前あったのは、芸能人の大御所の子ども・・・中年くらいになった子供が薬物の使用か何かて警察に捕まったとき、親がメディアの前で謝罪していたのが印象的だったのだけれども、そのくらいの年齢の子供の行動に関しては、もう育ちの影響は殆ど残っていないらしいから・・・・科学的に考えれば親の管理責任なんかは問うたところでしょうがないと思うのだけれども。

ちなみに、酒やたばこや薬物乱用に関しても遺伝の影響が、かなりあるとする研究報告も最近はある

ちょっと検索して出てきたのはこれ

 

覚醒剤使用障害の遺伝学的研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/21/1/21_47/_pdf

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抄録:覚醒剤をはじめとした「違法薬物の氾濫」という状態は社会的な大問題となっている。本稿では覚醒剤に焦点をあて,覚醒剤使用障害・依存・精神病性障害に関する遺伝学的研究についてまとめる。双生児研究によると,物質誘発性依存症は遺伝率が 60 %から 70 %と高いことが示されており,物質誘発性精神障害の遺伝学的研究が世界中で盛んに行われている。しかしながら,サンプルの収集が困難なため,日本では,Japanese Genetics Initiative for Drug Abuse(JGIDA)という多施設共同の研究グループがサンプルの集約と研究を推進してきた。我々も JGIDA の一員として遺伝学的研究を行っている。本稿では,JGIDA が中心となって行った日本人覚醒剤依存・精神病の遺伝学的研究についてまとめる。 日本生物学的精神医学会誌 21(1): 47-51, 2010

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