リーマンショックからもう15年

写真提供: 現代ビジネス

 2008年9月15日の「破綻」を中心に起きたリーマンショックから15年以上が経過した。現在の大学生や新社会人にはほとんど記憶が無いであろうが、当時世界を揺るがした大事件である。

 

 

「リーマンショック」という名前は、実は日本独特の表現=和製英語(参照:weblio)だが、「大手投資銀行・リーマン・ブラザーズ破綻」が日本や世界に与えた衝撃はすさまじかった。

 

 

 ただし、「大手」とはいっても、当時のリーマン・ブラザーズは、投資銀行として全米4位であったのだ。  

 

だから、米金融当局もリーマン・ブラザーズの「破綻」を「容認」したのだと思う。「リーマン・ブラザーズの破綻によって金融業界に激震が走るだろうが、それは巨大な米国・世界市場で吸収できる。それよりも『金融機関の経営責任』をとらせることの方が大事だ」と考えたのだろう。

 

だが、現実は思わぬ方向に進んだ。1929年のNY株式大暴落による「大恐慌」以来とされる、「大激震」が世界を駆け抜けたのだ。  

 

慌てた金融当局は、その後、危機に陥ったリーマン・ブラザーズよりも大きな金融機関を含むすべてを「救済」する方向に舵を切った。

 

 

 全米4位の投資銀行の破綻で起こった混乱の規模を考えれば、それ以上の規模の金融機関の「破綻」を容認できないのは明らかだった。また、小規模な金融機関の破綻が与える影響も予断を許さない状態であったといえる。

 

 

 結局、金融機関(の経営者)の「乱脈経営」の責任はほとんど追及されず、政府の資金(国民の税金)によって金融機関の危機が救われた。「乱脈経営」で得た(見かけ上の)利益による高額報酬をもらった経営者やトレーダーたちの「もらい得」に対して、多くの国民が怒りを感じたのも当然だ。

 

 2011年に起こった「ウォール街を占拠せよ」という動きは、ウォール・ストリートの関係者を含む(責任をとらない)富裕層と一般国民との二極化に対する抗議活動であったといえよう。

 

金融システムの「脆弱性」と社会の「二極化」

 確かに、リーマンショック後の15年間、世界の金融システムや経済は命脈を保ってきた。また、米国や中国、さらには新興国の経済も活況を呈した。

 

 もっとも、一足先に1990年頃のバブル崩壊を経験し「バブル恐怖症」になっていた上に、10月15日公開「日本のインフレ率はなぜ英米よりも低いのか~製造業大国はインフレに強い」で述べたように、インフレには強いが「デフレに弱い」日本はその米中や新興国などの「バブル」には乗り遅れた。

 

 もっとも、一足先に1990年頃のバブル崩壊を経験し「バブル恐怖症」になっていた上に、10月15日公開「日本のインフレ率はなぜ英米よりも低いのか~製造業大国はインフレに強い」で述べたように、インフレには強いが「デフレに弱い」日本はその米中や新興国などの「バブル」には乗り遅れた。

 

 

 1.(モノの裏づけのない)ペーパーマネーの過剰供給により引き起こされる金融システムの脆弱性 

2.(マネーゲームなどによって生じる)「二極化」

 

 という、世界の経済・金融における根本的問題は解決していない。それどころか、ますます悪化している

 

 2022年10月14日公開「米国は1971年にすでに死んでいた!? インフレで見えた本当の姿」で述べたように、ニクソンショック=「金・ドル交換停止」以来、「ペーパーマネー」の「過剰供給」によって膨れ上がってきた世界経済が、近い将来に半世紀に一度の「大激震」に見舞われる可能性は高いと考える。

 

 

 1997年のアジア通貨危機の11年後にリーマンショック(2008年)が起こった。それに対して、リーマンショック以来15年も経過しているのに「バブルの調整」が行われないのは、「今度のバブル崩壊は世界経済が支えきれない」と、各国の金融当局が怯えているからではないだろうか。

 

 よく「大きすぎて潰せない」というが、「大きすぎて潰せない『世界経済』」が破綻した時、いったいどうなるのかを考えると背筋が凍り付く。

 

 金融業界では「ブラック・スワン」という言葉がしばしば使われる。 映画「ブラック・スワン」は、バレリーナの世界における「サイコな女子の恐怖」を強烈に描いた名作だが、ナシーム・ニコラス・タレブ氏の「ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質」の方である。

 

 「不確実性とリスクの塊」のようなブラック・スワンが15年間も出現していないことは恐ろしい。

 

2007年から始まっていたサブプライム住宅ローン危機

 冒頭で述べたように、海外では「リーマンショック」という言葉が使われないが、それはリーマン・ブラザースの破綻だけが「2008年を中心とした危機」ではないからである。

 

日本経済新聞 9月16日「リーマン・ショックとは 金融機関で信用不安が連鎖」に詳しいが、2007年には「サブプライムローン」などの問題がすでに表面化していた。

 

ロイター 2007年8月10日「仏BNPパリバ、サブプライム問題で3ファンドを凍結」などである。

 

 

さらに、リーマン・ブラザーズ破綻直前の9月7日には、米政府が住宅2公社を公的管理下に置いた。

 

リーマンショックの少なくとも1年前には、「赤信号」が点灯していたということだ。

 

 今回の「ブラック・スワン」がいつやってくるのかは定かではない。前述のように「大きすぎて潰せない」ため金融当局が必死になっているから、「先延ばし」が長引くかもしれない。しかし、いずれ破綻する運命は避けられない。

 

注目すべきは、2021年4月20日公開「『ドルが紙屑になるかもしれない』時代に考えるべき、これからの金の価値」冒頭「アルケゴスは金融危機の序章か?」で述べたグリーンシルやアルケゴス(の問題)という「注意信号」がすでに点灯していることである。

 

 

 さらに、4月15日公開「SVB、クレディ・スイス破綻劇から考えると固定資産税はこれから急上昇する」で触れたシリコンバレーバンクが破綻したのは今年の3月10日だ。

 

金融当局が必死に(危機の)先延ばしを画策しているにしても、ブラック・スワンはすぐそこまでやってきているように思える。

 

冷戦後の「低金利・低インフレバブル」は確実に終了

 1971年のニクソンショック以来の半世紀以上にわたる「マネーバブル」については、前記「米国は1971年にすでに死んでいた!? インフレで見えた本当の姿」などを参照いただきたい。

 

1971年の「金・ドル交換停止」が世界の金融を変えたが、半世紀におよぶ「マネーバブルの時代」もいよいよ終りに近づきつつある。

 

 

 この1971年からのマネーバブルを加速したのが、ベルリンの壁崩壊(1989年)、ソ連邦崩壊(1991年)による「冷戦の終了」である。11月18日公開「バブル崩壊と冷戦終了からの30年が『失われた30年』とすれば、これからの30年は『日本が輝く30年』になる」冒頭「バブル崩壊と冷戦の終了で始まったこと」以降で詳しく述べている。

 

 

 本質的には、「低インフレ(デフレ)と低金利(マイナス金利)」が、1971年からのマネーバブルを極限にまで膨れ上がらせたのだ。

 

さらに、1978年から鄧小平により始められた改革・開放は、「北朝鮮よりも貧しい」と言われた共産主義中国を、世界第2位の経済大国まで押し上げた。

 

1997年に香港の譲渡・返還式典を見ずして鄧小平が死去するまでは、間違いなく「奇跡の経済成長」であったが、2001年の中国WTO加盟から本格的なバブルが到来したといえよう。

 

なお、この加盟は、日本経済新聞 2022年2月26日「米、WTO加盟20年の中国『約束守らず』 報告書で批判」で述べられているように、当時「条件が整っていないにも関わらず『将来改善する』との約束」で見切り発車した。

 

現在の共産主義中国の状況を見れば、明らかにこの「特別扱い」は誤った措置であったと言える。

 

 

その後、冷戦終了後にやってきたグローバリズムの大波に中国も巻き込まれ、「世界的バブル」の牽引車となったわけである。

 

そして現在では、8月31日公開「中国は崩壊か? それとも『失われる50年』か? いずれにせよ日本のバブル崩壊以上の惨劇が待っている」との状況に直面している。

 

 

 もう一つの牽引車が、1990年代前半からのインターネット・ITブーム、さらにはウォール・ストリートを中心とした11月24日公開「日本は『本当の金融業=融資型』で世界を席巻する~そしてFXを含む『ギャンブル系金融業』は終焉」で述べたギャンブル系金融業で世界を席巻した米国である。

 

 

 2022年11月30日公開「ついにGAFAバブルも『崩壊』か…『IT・インターネット革命』の時代は終わった」との状況がますます明らかになっている。「ギャンブル系金融業の終焉」と共に米国も「失われた○○年」へと向かうであろう。

 

さらに、新興国の発展も結局は、米中などにあふれる「マネー」の投資のおかげであったと言える。「低インフレ・低金利」の時代が終わり、「高インフレ・高金利」の時代になれば、マネーは先進国に還流し、リスクの高い新興国にわざわざ投資を行うケースは少なくなる。

 

ブラック・スワンで日本はどうなる

 日本も、一時的な打撃は避けられないし、日経平均の連れ安もあるだろう。

 

 だが、「世界大戦」にでもならない限り、11月29日公開「日米株価逆転は近い、日経平均株価は『10万円』を目指す可能性がある」のように、日本は長期的に繁栄する。また、もし世界大戦があっても「それなり」に頑張ると考える。

 

 詳しくは「大原浩の逆説チャンネル<第36回>世界の混迷の中で、『ガラパゴス日本』が発展する。ITから製造業へ。円安も追い風だ」などを参照いただきたい。

 

ただし、ブラック・スワンが無くても、「普通の金利上昇」でさえ、日本の財政、年金・保険を崩壊させるだろうから、十二分に備えるべきだ。

 

 年金・健康保険については、昨年11月21日公開「健康保険と『国営ねずみ講』の年金を『第2税金化』で維持に必死の日本政府」副題「金利が上昇すればどうせ破綻する」ということである。

 

 

 また、2021年10月25日公開「日本は外国に借金していないからデフォルトしないというのは本当か?」で述べた「国の借金」の利払いは、1%の金利上昇で約13兆円、同5%で約65兆円とほぼ日本の税収に匹敵する規模で増加する。(国民に苦痛を与えない)「解決策」などあり得ない。

 

 これからの日本で生きていくには、政府など当てにしていたら大変なことになる。「自ら生き抜く力」を身につけるべきだ。

 

大原 浩(国際投資アナリスト)