小学校の卒業式に、中学の制服を着る学校って多いよね。
私の通っていた小学校も、御多分にもれず。
でも、生徒の半数は私服の中学へ進学したので、全員がそろっているわけではなかった。
それでも、幼い私の目には、普通のスーツも、制服のように見えていた。
時々、グレーのスーツとか着ている卒業生を見ると。
「どうしてあの人制服じゃないんだろう」と思ったりしたものだ。
そして、私が3年生の卒業式のことだった。
3学年年上の姉が卒業することになったのだが、姉は中学の制服を着ていかなかった。
「4月までは中学生じゃないんだから」と、母が言ったのだ。
私は子供心に愕然とした。
卒業式の時に、中学の制服を着ることを楽しみにしていたのだ、これでも。
それから3年の月日が流れ。
いよいよ私も卒業することになった。
母は当然のように、
「美伊、卒業式の服買いにいくわよ」
と、私をデパートに連れて行った。
うちは親の言うことは絶対。
「中学の制服を着て行きたい」
と、どうしても言えなかった。
そして、しぶしぶスーツを買ってもらった。
その日から、私は、同じ中学へ進学するクラスメイト達に声をかけた。
「卒業式の時、中学の制服着てく?」
すると、みんな口をそろえて行った。
「何言ってんの。着ていかなきゃいけないんだよ」
友人と親の板挟みで、私はますます困惑した。
卒業式前日は春分の日で休み、その前の日に、先生が、卒業式に関して質問はあるかみんなに訊いた。
私は早速手を挙げた。
「○○中学へ行く人は、絶対に制服を着てこないといけないんですか?」
先生の返事はこうだった。
「そんな必要はありません」
私がほっとしたのも束の間。ホームルームが終わると、私はみんなに取り囲まれた。
「美伊、卒業式に制服着てこないの?」
「美伊、中学へ進学しないの?」
「先生はああいったけど、着てこなきゃいけないと思うよ」
そんなみんなの言葉に、私は泣き出してしまった。
「私だって着たいよ。だけど、お母さんが着ちゃいけないって言うんだもん!」
泣きながらそう言う私を見た友人が、先生にことの顛末を話してくれた。
そして、先生から母に頼んでくれることになった。
先生から連絡を受けた母は、私のことをすごく怒った。
「制服を着て行きたいなら、最初からそう言えばいいでしょ?」
母は、私が制服を着て行きたがっていることは怒らなかった。
それを、自分で言わず、母にお金を払わせてスーツを買わせたことを怒ったのだ。
でも、言えなかったんだもん。
うちは他の家以上に、親の言うことは絶対従うって風潮があったから。
私にさんざんお説教した母も気がすんだのか、翌日の春分の日に、制服を取りに行ってくれた。
そして、私は晴れて、中学の制服を着て卒業式に臨んだのだった。
クラスのみんなも。
「美伊、制服だ。よかったね」
と言ってくれた。
卒業シーズンになると思い出す、私のちとほろ苦い思い出でした。