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第十二章 【因縁】 その3

「ボブさん、大丈夫?」


涼子に揺り起こされたボブはようやく意識を取り戻したが状況を掴めず呆然として 自分を取り囲む涼子と安西と武藤の顔を見回している。



ボブの無事を確認した安西は立ち上がり、木庭の前に歩み寄った。



木庭は思わず拳を固めたが予想に反して安西は静かに喋りだした。



「木庭さん。アンタの性善説、良い勉強になったよ」


その声を聞き木庭は拳に込めた力を緩めた。


「アンタに追い込まれて、俺も真理を理解する事が出来た。誰の心にも、身勝手な思いに塗り込められたその中には、確かに良心が息づいてる……アンタが根絶やしにしたっていう良心がな」



「それで?」 堀渕を一瞥して木庭は安西に向けて口を開いた。


「その良心が現実には何の役にも立たねえって事も理解出来たのか?」



「役に立つさ。真理に逆らったアンタは間違ってる。 今の俺なら迷わず自分の良心に従う道を選ぶ」



「俺が間違ってる? その腫れ上がった顔じゃ説得力に欠けるな」


安西はマルボロをくわえて火を点けた。



「一人ひとりの信条が住む世界を天国と地獄に分ける。 アンタが全てだと思い込んでるこの世界はアンタの枯れた心が創り出したんだ…… 俺はこんな世界で生きるのは御免だ」


そう言い終わると安西は堀渕に視線を向けた。


堀渕はかるく微笑み頷いた。



「そんなに嫌うなよ」 木庭は呟いた。


「地獄で頂点目指すのも悪くねえだろ?」



「安しぃセリフでカッコつけてんじゃねえよ木庭」 堀渕が言った。


「素直に自分の弱さ認めて考え改めねえと、お前ぇにこのサキはねえぞ」



「弱さを認める?」



「あぁ。いくら取り繕っても反社会的な行為は弱さの現れだ。 お前の心の中は怖れに支配されてる」



「アンタの話、回りくどくて意味解んねえな」



「お前の世界観じゃ理解し難きぃだろうが、もともとこの世界には愛しか存在しねんだ



木庭は堀渕の言葉に驚き、蔑むような嗤いを浮かべる。

「アンタ俺をからかってんのか? 考えてみろよ、世界中悪意に満ちた犯罪だらけだ。 テメエの欲の為に人の命さえ何とも思わねえ輩で溢れかえってる。 愛なんて探す方が大変だよ」



「それはなぁ木庭、全部お前みたいな人間のネガティブな感情が生みだした結果だ。 もう一度言う、人間の感情が生みだした結果なんだ」



「状況が感情を生みだすんだよ。 この世界には人の欲望を満たすモノが全く足りてねんだ。 力がある奴が独占して、ない奴には何も残らねえ。 そこらじゅうネガティブだらけであたりまえだろ」



「人の欲望を満たす才能をそれぞれ皆授かって生まれてんだよ。自分だけの才能を……ところがどいつもこいつもテメェの欲望満たす事にしか興味がなくて 授かった才能を見付ける事も育む事もしねえ……だから皆が欠乏に喘ぐんだ」

「誰も他人なんか信用してねえからさ。 この世界で人に期待しようモンならそれこそ命取りだ…… だからテメエの欲望はテメエで満たす」



「結局信じるのが怖えんだろ?」 堀渕は薄笑みを浮かべた。


「それがお前の弱さだよ」



木庭は堀渕の言葉に苛立ち、床に唾を吐いた。




そこに涼子と片足を引き摺る武藤、そして濡れた股間を気にするボブが歩み寄る。

堀渕は涼子に言った。

「遅くなって悪かったな」

その時涼子が堀渕に見せた笑顔は彼女の深い信頼を表していた。


「堀渕さん」 ボブが小声で話しかける。 「俺、ションベン漏らしたかもしんない」

「てかお前、ソレ完璧漏らしてるって」

「やっぱそう?」 濡れたジーンズの股間をつまみ。 「もっすご痒いんですけど」



「今日のお前、お漏らしチャラになる位頑張ったんだから、そんなの気にすんな」



「気にするよ! えぇ! 今日の頑張りお漏らしでチャラかよ……えぇ~」




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