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第十三章 【再出発】 その2

車に乗り込む前に安西が背中越しに言った。


「もし堀渕さんが来てくれなかったら……今頃俺はくたばってました」


そう言うと安西は振り返り俺の目を見て言った。


「本当に有難う御座いました」



「俺はボブ迎えに行っただけだ。何もしてねえよ」


「武藤も……凄く感謝してました」


「彼は今どうしてる?」


「昨日実家に帰りました。親父さんの後継ぐらしいです」

「そら良かった」



「堀渕さん……ひとつ聞きたい事があるんですけど」


安西は躊躇いがちに言葉を続けた。


「今の俺は何が正しい行いか判断する事は出来ると思います。 ただ俺は貴方程強くない…… 果たして正しく生き抜く事が出来るのか……考えれば考える程不安になるんです」




「君の言う強さってのは?」




「貴方は現実的な力も持ち合わせてる。誰も貴方の進む道を阻む事は出来ない程の。 俺等にしてみれば正しく生きる事は、なんか、凄く覚悟のいる事だと思うんです。 無防備のまま、欲望の渦の中に身を委ねるようなもんだから……」



「君はひとつ思い違いをしてる。 真理を自分の世界観に落し込んで否定するのは間違いだ。 『欲望の渦』という君の世界観は、今までの君の思考と行動が生みだしたんだ。 世界は君の内面に応じて姿を変える。ほんの少しでも 真理に近付けたと思うなら、そんな世界観は一刻も早く捨て去るべきだ。 正しく生きる決意があるなら、何も思い悩む必要はない」




真理を知る機会は幾らでもある……


しかし成長を拒み不平不満の中に生き続ける人たちは自分の偏狭な人生観、世界観を疑う事もなく、それを根拠に全てを『綺麗事』として片付ける。思い煩わせるモノから解放されたいなら、その原因である今までの自分を真っ先に疑うべきだ。



「そうっすよね」 安西の表情が少し明るくなった。


「何もしないうちから心配ばかりしてたんじゃ、本当に理解出来たとは言えないっすよね」


「変えんのは状況じゃなくて自分だから、出来るか出来ねえかは自分次第だ。 良心に従って行動して、自分が関わる相手を豊かにすんのを目標にすりゃあいい。 すぐ結果が出なくても状況や評価なんて気ぃ付けば変わってるもんさ」



安西は力強く頷きセダンに乗り込んだ。


「堀渕さん」 涼子が助手席で頭を下げた。


「本当に有難う御座いました」


そして安西ももう一度深々と頭を下げた。


俺は昔からお礼を言われるとリアクションに困る傾向がある。

今回も視線を逸らし俺からは出来る限りあっさりと別れを告げた。



「二人とも元気でな」


そしてラークに火を点けて走り去るセダンのテールを眺めていた……。



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