第十二章 【因縁】 その4 | 就職情報HAPPYWORK

第十二章 【因縁】 その4

「なんだかシラけちまったな」 木庭は溜息をつき安西に言った。


「まあ堀渕さんの顔たてて、お前ら今日のトコは勘弁してやるよ」


「金は?」 武藤が不安気に尋ねた。


「別にいい」 木庭は素気なく答える。「金が目的じゃねえし」


武藤はヘタり込みそうな脱力感に襲われたが、なんとか踏み留まった。


そこでボブが口を挟さむ。

「堀渕さんの顔たてるって? 二人馴染みなの?」


ボブを黙殺したまま堀渕は木庭に礼を言った。


「有難う。感謝するよ、木庭」

「勘違いしないでくれよ」 木庭は堀渕と目を合わさず、
「アンタの話に納得した訳じゃねえからな」


黙ったまま頷く堀渕。

「ねえ馴染みなの?」 堀渕の肩をつつきながら尋ねるボブ。 「ねえねえ」



「帰れ馬鹿。こいつ連れてって。臭いし」 武藤に頼む堀渕。


武藤はボブの腕を引っ張っていく。


「そんな怖い人と馴染みなの? ねえねえ堀渕さん」


安西は木庭に尋ねた。


「俺たちも本当に帰って良いのか?」


「あぁとっとと消えろ……」 木庭は二人に念を押す。

「ただしこの世界にお前等がもう一度足を踏み入れたら、次は確実に殺すぞ」


「解ってる。頼まれてもゴメンだよ」 と安西は答えた。


「木庭さん」 涼子が前に歩み出て言った。

「私は……あなたがこの世界から抜け出せると信じます」


そう言い残し頭を下げると4人は事務所を出て言った。


ボブが堀渕に問い掛ける声が徐々にフェードアウトされていく……。



「アンタも帰ってくんねえかな堀渕さん。もう用はねえだろ」



「あぁ」 堀渕はもう一本ラークをくわえて 「邪魔したな」 木庭に背を向けた。



「アンタ昔とはまるで別人だ……いったい何があったんすか?」



木庭のその声に振り返る堀渕。


「自分の為に力を行使すればする程、自分自身が孤独な存在になる。
俺は『自分の力も才能も、全て人の為に授かってる』って事に気付いたんだ。そしたら、 前みたく生きれなくなった。あの頃はただ……未熟だったんだろうな」



「それって嫌味のつもりっすか?」



「どうだろ?」 そういうと堀渕は自分の名刺を取り出し木庭に手渡した。


名刺の文字を目で追う木庭。


「就職情報ハッピーワーク?」


「例え世間から弾きだされた奴にでも、そいつの力や才能をカタチに出来る仕事を探す。 それが今の俺の生業だ。まともな人生が送りたくなったら、何時でも訪ねて来い」


「まともじゃなくて結構だよ。俺は今のままで充分満足してんだ」


「そうか……だったら良い。なんならそこでいい子にしてる兄ちゃん達でも歓迎するよ」



そう言って堀渕は名刺を5枚、床に撒いた。


「そんな事して世直しでもしてるつもりっすか?」 木庭は蔑むように言った。


「結局はアンタの自己満足だ。アンタ一人が幾ら頑張ってもこの世界は変わりっこねえ」



「そうかもな……俺ひとりじゃ世界中を変えんのは難しいだろう。
でもな、例え一人でも心構えと姿勢が変われば、そいつを囲む世界は間違いなく変わる。
それが取るに足らない小さな変化でも、俺はそれで充分遣り甲斐を感じてるんだ」


そう言うと堀渕は再び背を向けた。



「アンタみたいな悪党が生まれ変わるなんて、俺は信じねえ」


木庭は堀渕の背中に言った。


「あんな悪党が生まれ変わって善人面なんて……俺は断じて許さねえ……」


ドアの手前で堀渕はもう一度立ち止まった。


「お前が信じる信じねえに関わりなく剋友会の堀渕は死んだんだ。今日の事は他言無用な」



そう言い残すと右手を軽く上げ立ち去った……。



構成員たちが堀渕の名刺を拾うまで木庭は呆然と立ち尽くしていた。


あの男は木庭に6年前と明らかに違う類いの劣等感を植え付けて行った。


木庭は自分が今迄築き上げたのは砂の城で、堀渕は強大な波濤だと感じて……

打ち消した。




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