第七章 【軋轢】 その2
武藤の足からアイスピックを抜く木庭。武藤の強張った体の力が抜ける。
「挑発しても無駄だ。残念ながら俺はサシの勝負で熱くなるほど若くねぇ。 今興味あんのは篤誠会に逆らったお前たちの処分だけだ」
武藤が掠れた声で呟く。
「俺たちに選択の余地はなさそうだな」
「選択肢は二つ用意してる。お前等の好きな方を選べば良い。 まず一つ目、シンプルに金で解決コースだ。 慰謝料として二人で1,000万用意しろ。そうすりゃ今回の事は水に流してやる」
木庭を上目遣いに見据える安西。
「無理に決まってんだろ、1,000万なんて……」
「そうなるともう一つの死んで解決コースしか残ってないんだけど、いいのか? 因みにこっちのコースはお前等が死んだ後はお前等の親族から取り立てる……1,000万」
安西と武藤はまさに死んだような面持ちで脂汗を浮かべ俯いていた。
既に自分達では収拾が付かない状況に陥っていた。
知らず知らずに蒔いた愚行という名の種が一気に実り、悪しき蔦が全身に絡みつき身動きを封じる…そして常に多くを失ってきた自分の手に残る僅かなモノですら奪い去ろうとする。
「どっちのコースだ?」
木庭は二人の表情を覗きこみ明らかに愉しんでいるようだった。
「おい松井、さっきの持って来い」
木庭の指示で大柄の男がクリアファイルを手渡した。
そこから取り出した資料を無言で見ている木庭……辺りには資料を捲る音だけが聞こえる。
「武藤君はアレだなぁ、実家が凄げぇな。酒造ってんのな。」
驚き顔を上げる武藤。調査資料?こいつ等は勢いだけじゃなく思った以上に用意周到だ。
「これなら5・600万は堅いんじゃないの? 親に泣き入れて工面して貰ったら? それで死なずに済むんだから、働いて返したらいいじゃない」
「少し……考えさせてくれ」 力なく項垂れる武藤。
「解った。じゃぁ後で返事をきく」 今度は安西に向き直る木庭。
「ところで問題はアンタの方なんだ安西君。母子家庭で育ったんだって?」
「関係ねぇだろ」
「関係あんだよ、金取り立てんだから。 それにしてもお前のオカン、温泉町のストリッパーかよ。最悪の家庭環境だな」
「うるせえよ。お袋、侮辱すんな」
「侮辱するつもりはねぇよ。 ただ場末の劇場の歳くったストリッパーなんて考えただけで泣けて来るよ」
「それ以上舐めた口きいてっとブチ殺すぞこのシャブ中」
見兼ねた武藤が声を出す。
「やめとけ安西」
「怖いねぇ安西君。そう熱くならずに偏見に満ちた俺の意見なんか聞き流せよ。それとその状態でどうやって俺を殺すんだ? お前が言葉に気を付けろ」
後ろ手に縛られ後ろから髪、両側から二の腕を掴まれて身動きの取れない状態で 鼻から大きく呼吸をしながら木庭を睨む安西。
「しかもお前の女、伏谷んとこのシャク屋で働いてんだって?」
「あの女とは別れた……もう関係ねぇ……」
「ホントか?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「まぁいい。俺はお前に会う前からどんな男か凄く興味があったんだ。母親がストリッパーで女が風俗嬢。男の性欲喰いもんにして生きてる男。それもヒモなんてレベルじゃなく生い立ちからそうときてる。 何喰って大きくなったか知らねぇがお前には頭のテッペンから足の先まで男の性欲が詰まってる。 しかも殆ど純度100%だ……。安西、お前は存在が卑しい。考えるだけでヘドが出そうだ」
「本気で人を殺したいと思ったのはアンタがはじめてだ……。 お袋も涼子も真剣に働いてた。 二人ともこんな俺の為に真剣に働いてくれた。 二人が俺に与えてくれたのは……追い詰められた人間のなけなしの愛情だよ。
人を泣かせた金で生きてるクズみてぇなテメェに、侮辱する資格はねぇ」
「泣ける話だねぇ。お前もこうなるまで俺等となんら変わらねぇクズだったろ。 いつの間に立ち位置変わったんだよ」