この人のために
泣いたってこと
何年か前に実家の仏壇が
行き場を失って処分された
だれも継ぐ人のいない家の末路…
仏壇の引き出しの中身だけ、
親族が父に送付してきたものを
私が持ち出した
時間がなくて目を通せずにいたものを
漸く開けてみた
大したものはなく
曾祖父が大叔父に掛けた保険の証書と
祖父の成績表、手紙が２通。
過去帳や家系図の類いは
無いとは聞いていたけど矢張なく、落胆
手紙を開くと１通は
祖父の戦死した次兄の戦友会から
戦後50年戦没者供養式典の報告の手紙
もう１通は
茶けた紙の両面に
びっしりと文字が書かれた手紙
旧字や古い言葉遣いや劣化で
かなり読みづらいそれは
昭和22年の日付
祖父の戦死した長兄の
戦死状況が記されていた
私がいくら調べてもわからなかった
彼の足跡…
昔、祖父の実家の仏間に掛けられた遺影を
ぐるぐる畳の上で回りながら
よく眺めていたのを
思い出す
この人がここで死ななければ
私は今ここにはいない
私はそれをよく知っている
この会ったこともない故人は
私と父の人生を
大きく左右している、
いわばキーパーソン
一番知りたい箇所は
掠れてよく読めなかったけど
即死だったことはよくわかった
最後の方は、
文字がところどころ
丸く滲んでいる
あの、ドロドロだった親族関係の中でも
誰かがこの手紙を読んで
涙を流したのだと思うと
この人が愛されていたことが窺い知れた
結婚したばかりの妻を実家に残し
27歳で死ぬって
どんな気持ちだろう
何も遺せず死ぬって…
否、彼の死の結果
祖父は苦しい人生を送り
父と叔父たち、
従兄弟や姉や私が生まれたのか
私は、何のために
生まれなければならなかったのかな?
この人の残りの人生と引き換えに
生まれた意味って何だったのだろう?
そんなもの、
ないから作って行くのかな
でもいまはまだ
あなたに恥じない生き方は
出来ていません