アイツは中学校の同級生だった。
校内暴力や暴走族が全盛期、ベストセラーは積木くずし。
私の通っていた中学校はかなり荒れていた。
ワルのグループを追いかけて先生方は授業が出来なかった。
それでもブツブツ言いながら校則を守り、
遅刻をしないで通う子がほとんどだった。
私のクラスでただ一人のワルがアイツだった。
男子には嫌がられ恐れられ、
アイツのせいで休みがちになった子もいた。
私はアイツと言葉を交わした記憶がない。
そんなアイツが10年経って
いきなり電話を掛けてきた。
「久しぶり。俺俺、覚えてる?」
と、やけに親しげに馴れ馴れしく話す口調に
私はちょっと身構えた。
連絡先を教えたのは誰だと少しイラッとした。
妊娠している妹の旦那が逮捕されて
妹は義理の親に虐待されている。
どうすればいいのか解らない、相談に乗ってくれと
いきなり昔のままのヤンキー口調で話した。
「俺、頭イイまともな友達いないからさ。」
と小さな声でつぶやいていた。
何だかんだと話すうち、
アイツの信頼している少年課の刑事に相談することになった。
「ありがとう。相談して良かった!」
と明るく言ったので
「110番じゃないよ。外線の番号にかけるのよ。」
と私が言ったら、よくわかんねーから直接訪ねると言っていた。
それからちょくちょく電話がかかるようになった。
10年経っても中学校時代を昨日のことのように
ヤンキー口調で話すアイツに
私はウンザリしていた。
アイツが話す身の回りの事件は
会社勤めをする私にとっては恐ろしい以外の何物でもなかった。
その頃からアイツは
私の小学校からの幼馴染で
中学校でも同級生だったオースケにも
私に話すのと同じような意味の無い電話を掛け始めた。
中学校時代に女子にモテモテだったオースケを
いじめて追いつめていたくせに。
オースケも何だ?あいつ?と言っていた。
成長してなくてこえーよとも言っていた。
時々掛けてくる、アイツの電話の声が
だんだん酔っ払いそのものに変化してきた。
私はうんざりしてずっと留守電にしていた。
アイツはそれでも留守電に向かって
毎回、延々話し続けて
私はラジオのように呂律の回らない声をきいていた。
実家に住んでいたオースケはずっと受話器を取っていた。
ある日、意味不明なことを留守電に話すアイツの声を
きいた瞬間にひらめいた。
受話器をとって
「ドーピングしてるでしょ。」
と一言言ったら
アイツは何かを言ったけどよく解らなかった。
オースケに電話をしたアイツは
呂律の回らない声で久しぶりに会おうぜと言ったらしい。
駅で待ち合わせだというオースケに
私は危ないから行かない方が・・・と言った気がする。
でも車で行くから大丈夫、遠くで見て様子がおかしいなら
車から降りないからと言っていた。
「アイツがおかしかったら通報してやっていいよな。」
そういっていた。
30分経って電話しなかったら
しょうが通報してくれとも言ってでかけた。
でもアイツは来なかった。
オースケは駅周辺を捜したらしいけどいなかった。
それからアイツは私にもオースケにも電話をして来なくなった。
30歳の時、クラス会があった。
私もオースケも参加していた。
アイツが繰り返し言っていた。
「俺、高校卒業したんだぜ。一回やめたけど頑張ったんだぜ。
みんなさ、俺が馬鹿だと思ってるけど高卒になったんだ。
俺はクラス会、呼ばれないから今度会ったらみんなに言ってくれ。」
「自衛隊でさ、新人は横須賀がきついんだ。逃げたヤツいっぱいいたのに、
俺は逃げなかった。雪の中でも頑張ったんだ。みんなに言ってくれ。」
アイツが話題になったら話そうと思ってた。
でもその前にチーコが眉を顰めて言った。
「アイツ、死んだんだよ。薬だってさ。」
地元で地域で交流のある連中はそうそうと言っていた。
でも誰もアイツがいつ何処で死んだのか知らなかった。
「知りたくもねーし。」
と昔、ひどく苛められていた男子が言った。
私とオースケがアイツが高校を出て自衛隊で頑張ってたらしいと
話しても誰も何も言わなかった。
あれ以来、クラス会には出ていない。
15歳の春から会っていないアイツ。
なんで私に電話をしたかと聞いたら
「ちょっと可愛いと思ってたのに、ちょっかいだすと
こえー目で見て無視してたから。
この女、中身は男よりスゲーつえーと思った。
頼るならあの女だと思った。」
とか何とか言って私が男みたいだと
イライラさせるヤンキー口調で熱弁をふるっていた。
モテモテだったオースケが河童ハゲになったらしい
きっと独身なのはそれだと嬉しそうに話していた。
ごめん。
思ったより頼りなかったね。
語りあえる友達が欲しかったんだよね。
俺、話しを聞いてくれる友達がいないっていってたけど
オースケはホントに心配していたんだよ。
通報してくれって出かけた時、男の友情をみたよ。
ちゃんと友達はいたんだよ。
なんであの時来なかったんだ?
オースケは恐がりながら
あなたの為に通報するって震えてたんだよ。
人とのかかわり合いが苦手だったのは
あなたの育った家庭のせいだってみんな知ってたよ。
中学の担任も言ってた。
アイツの家は保護者がいないってね。
お袋は男作って、親父は女作って
俺と妹をおいて毎晩どっかに行っちまうって。
俺は結婚したら子供を守る。
絶対に家族を命がけで守るって言ってたね。
次に生まれるなら
お前んちみたいな家にお坊ちゃんで生まれてやるって
言ってたけど、
私はあなたが言うほど頭も良くないし、
お嬢さんでもなかったんだけどな。
ごめん。
留守電にしちゃってて。
だって、ヤンキー口調で馴れ馴れしいのが
怖くてうっとおしく感じちゃったの。
あの頃、私、恋愛も仕事もごちゃごちゃしててさ、
10年会ってない人に真剣に向き合う余裕はなかった。
命日も知らないし、お墓もあるのかわからない。
もうどっかに生まれ変わる準備してるかな。
ウチの息子の子供にはなるなよ。
あなたのヤンチャぶりは私の手には負えないわ。
大丈夫、私は息子を命がけで守るわ。
子供を生んで親になって
やっとあなたの言ってた家庭の理想が解ったよ。
ごめん。
本当にごめんね。
ブログに書いてどうにもなる訳でもないけど
誰にも言えないし許してね。