先日のカンブリア宮殿で取り上げられたスイデンテラス。


SHONAIという街づくり会社の仕掛けた正に水田の中に建つホテルです。


周囲に観光スポットなどはなく、ただ田んぼの真ん中に建つホテルは異様で建設当初はほぼ誰もがこんなところでうまくいくわけがない、と言っていたそうです。


創業者の山中氏はそれまで有名大学を出て、大手不動産会社に勤務するといういわゆるサラブレッドです。


その彼が鶴岡市の田園風景をみて、突然移住し、最終的には自らなんと水田の真ん中にホテルを建てることになったのです。



当初はホテル経営の素人であったことから厳しい運営状況でしたが、現在では人気のホテルとしてカンブリア宮殿にも取り上げられたということです。


この水田に水を張った風景の美しさというのは田舎の人間には気づくことさえできなかったものでしょう。


もちろん借景としての水田の美しさだけでホテルが成り立つわけはなく、この庄内の魅力を都会人の山中氏の視点で再確認し、それを引き出すことができたからこその成功だと思います。


このホテル経営は今までの宿泊施設の考え方を大きく変えるものだという気がします。


宿泊とは何かの用のための宿泊を提供する施設というのが現在までの捉え方でした。


ビジネスホテルとはビジネスで出張する方のためのもの、観光ホテルとは観光に各地に出向く方のための宿泊施設、といった感じです。


つまりホテル自体が目的ではなかったのが今までの宿泊施設です。


しかし、このスイデンテラスはこのホテルこそが旅の目的であり、このホテルこそが観光対象になっているということです。


このことを各地の自治体の観光振興に携わっている方は大いに参考にすべきでしょう。


私も田舎生まれの田舎育ちですが、水田の美しさは実感しています。


田植え前後に水を張った水田に稲の苗を規則的に植え付けられた幾何学的な美しさ、稲が育ち、淡い緑色に染められて風になびく水田のホッとする懐かしさ。


そして夏を過ぎ、濃い緑になった水田の力強さ、秋になり、黄金色に変化した水田の豊かさ、等々、田舎育ちの人なら誰しも感じね水田の変化はまさに日本特有の風景といっていいでしょう。


ただ、写真や映像で見ると素晴らしいことばかりのように思いますが、実際の農業は雑草と害虫と病気との戦いを常にしています。


そして日本特有の台風シーズンになると農家の方は無事に被害がないように祈るだけの日々を過ごすことも多いです。


この雑草と害虫の問題を多くの都会人は知らないでいることが多いのではないでしょうか。


この外的リスクを除く努力をしてこその水田の美しさを保っているということを都会の方たちに知ってもらうことも意味のあることだと思います。


このSHONAIという会社はその雑草のリスクを軽減するためにアイガモロボというのも開発しています。


昔流行った合鴨農法の進化版でしょう。


いなかの魅力とはただ、単にいいところだけをクローズアップするのではなく、リスクとなることも紹介してもいいのではないかと私は思います。


雑草のもつ破壊力は田舎でないとわからないし、昆虫が飛び交う環境は都会の人には想像もつかないでしょう。


田植え時に田んぼに水を張ったとたんに帰るの大合唱が始まることだって知らないと思います。


これらをまとめてが田舎の魅力なのではないでしょうか。


昆虫の中にはカブトムシのように高価で売買されるものもいますが、ほとんどは蚊やハエのように忌み嫌われるものがほとんどです。


のどかな田園風景の中ではこれらとの戦いが常に行われているのです。


もちろんこれらの人間にとって不快なものをストレートに体験していただくわけにはいきませんが、これらの存在を無いものとしてきれいなところだけをクローズアップして終わりでは、それは田舎の魅力をすべてお伝えしたことにはならないと思うのです。


地方創生とは地方に観光客を呼び込むというのが最終目標ではなく、地方に住みたいという人を増やすことが目的だと私は思うのです。


そのためにはプラスとマイナス両方を伝えるべきであって、マイナス面も新しい人の発想で少しでも少なくできればそれこそ、地方再生につながっていくと思います。


田舎というのは見た目刺激の少ないところです。


騒音もないし、風景もとてもゆったりとした変化しかしていません。


ただし、ミクロの視点では多くのものが動いていますし、戦っています。


田舎でも見方によっては様々なものを提供できることができるかもしれませんね。