大好きな人と付き合えた。大好きな人の彼女になれた。大好きな人の。私はなんて幸せなんだろう。

大好きなあの人はみんなの人気者で、いつも明るくて、おどけた冗談を言うんだけれど、本当は優しくて誰より親切。私、この人が好き。ずっとずっと、この人の恋人になりたいって思ってた。それが叶うなんて、なんて幸せなんだろう。

デートのたびに好きになっていく。手をつないで歩くのも、一緒にカフェラテを飲んだ日も、笑いながら髪を撫でる仕草も、声が時々高くなるのも、ぜんぶぜんぶ大好き。

でも……。

私はあの人に似合う女の人かな?もっと大人っぽい人の方が好きかな。こんなガサツな女の子は好きじゃないかも。だって、分からないけど、なんとなくまわりはそう思ってるんじゃないかって、なんとなく……ね。

でも……。

言えない。こんなの。いつも明るいあの人。優しいあの人。愚痴一つ言わないあの人。大好きなの。嫌われたくない。大好きなの。私、ずっとあの人の彼女でいたい。

でも……。

嫌われちゃうかもしれない。でも言いたい。知ってほしい。本当の気持ち。不安なこと、怖いこと、もっと近づきたいこと。二人の時間は楽しいけれど、もっとあなたのこと知ってみたい。

次のデートの日、本当は水族館に行く予定だった。だけどワガママを言って私の部屋に来てもらった。デートの時はいつも女の子らしい服を選ぶけど、それはわざわざ買ったもの。本当の私は動きやすい服の方が好き。いつもの、一番好きな私で、彼を出迎えた。

一瞬、驚いた顔。

どうしよう、嫌われた?分からない。すぐに笑顔に戻った。「いいじゃん。似合うね」って、いつものあなた。分からない。本当はどう思ってるの?

二人きりの部屋。息が近い。流れる音楽は彼の好きなもの。私の部屋に彼の好きな音が響く。二人の時間。ぽつりぽつりと話し出す。冗談も言わずに、真剣に聞いてくれた。私の不安。笑いながら髪を撫でてくれた。私の不安にあなたは言った。大丈夫って。

大丈夫。
そんなの同じだから。

少し目を伏せていつもより少し低い声で教えてくれた。いつもカッコつけて、家に帰ると本当は疲れてたこと。いつもは良い人に見られようと、カッコイイ自分を見せようと、頑張ってたこと。でもやめられなかったこと。

怖かった。

嫌われるのが怖かった。本当の自分を見せて嫌われるくらいなら、相手が好きそうな自分になってずっと一緒にいたかった。それは二人とも同じで、だから楽しかったのかもって。でも違うよね。疲れる関係ってきっと長続きしない。彼の言葉に私もうなずく。本当はもっと私たちって似た者どうしだったのかも。

二人きりの部屋に音楽が響く。

今度は私の好きなもの。コーヒーをいれる。お砂糖とミルクも。二人とも甘党のくせにカッコつけて、いつも砂糖はいれなかった。おかしくて笑っちゃう。私たちって、同じところを気にしてたのかも。なんだ、きっと、私たちってもっともっと仲良くなれるはずだったのに、遠回りをしてたのかな。

音楽が鳴り止む。今度はどちらの好きなものを?静かになった部屋で見つめ合う。ああ、これは、たぶん。あなたの考える事が分かってしまう。だって私たちって本当はよく似てる。西日が入る窓をカーテンで遮った。静かに音楽が流れる。お互いを深く知っていく。

私たちはもっともっと仲良くなれる。きっと同じところがたくさんある。もっともっと知っていけば、違うところも抱きしめ合える気がした。あなたとなら、きっと、こういうのも悪くないかなって、きっとそう思えるの。

夜の静けさが二人を包む。静かな寝息が聞こえる。繋いだ手があたたかかった。明日の朝はコーヒーをいれよう。それともカフェオレにしようかな。どちらにしてもお砂糖はたっぷり。それから朝ごはんは……。静かな寝息に私もまぶたが重くなる。また明日。あなたと色んな話をしよう。少しずつ知っていけたら、きっともっと好きになる。違っても、それでも良い。怖がらないで好きになろう。