「まさかおぬしがそれを持っていようとはな。」

「お父さんが残してくれたの、変なペンだと思った。インクでないし、お守りとして使ってたの。」

「そうか。とにかく早く。」

「うん。」

ヘンリーは少年にペンを渡す。

するとあたりは青い光と青い風に満ち溢れ、ヘンリーや老人までもがおかしな気分になってくる。

「なんだ、この空間は。」

「ほんと、体から生気が溢れてるみたい。」

光と風は少年へと収束してゆき、やがて消えた。

「ねえ、大丈夫?」

「はい。大丈夫です。」

「喋った!やっぱり、エネルギー不足だったってこと?」

「そうです。僕ら一族は、こうしてエネルギーを蓄えなければいけないのです。」

「そうなんだ。」

「今はおぬしが、意識を失ってから500年経っておる。辛いだろうが、それが現実だ。」

「500年。なにか、なにか、忘れていることが。」

「忘れていること?なに?」

少年は何かを思い出そうとしているが、ショックからか、忘れてしまっている。

「僕らは星の軌道が読めるのです。お爺さん、僕が眠ってから500年の間に彗星は何度星の近くを飛びましたか?」

「彗星とな?」

「はい。」

少年は必死に何かを思い出そうとしていた。

「4回じゃ。この当たりは彗星は、あまり飛んでこん。記録では4回だけじゃ。」

「4回、なにか、なにか大事なことを忘れている。」

「彗星が、何か関係あるの?」

「僕の父が残した本があるはずだ。それを見ればきっと。」

「あんたのお父さんが?」

「はい、僕の父は研究家でしたので。」

「じゃあ、私と同じだ!」

ヘンリーの笑顔に、少年は少し安心したのだろう。目覚めてから初めて、ふっと、笑った。

「あ、笑った!あんたの笑った顔初めて見た!いい顔してるね!」

「ありがとう。」

「のう、ヘンリー。とりあえずその書物を探してはみないか?」

「でも、どこを探すの?」

「世界図書館じゃよ。」

「残念だけど、あそこじゃダメね、裏側については書かれたものは何も残っていないわ。きっと政府が消したのよ。」

少年は毅然とした態度で言う。

「それなら、大丈夫。僕の父の本は、きっとあそこに埋まっている。」

少年は自分が埋まっていた場所を指さす。

「僕はあの炎の中、この本だけはと、持って逃げたんだ。だから、きっとあそこに。」

「ならば、掘るしかないな。」

「掘る!?どうやって?」

「安心しろ、機械のあてはある。明日掘ろう。」

「そう。」

少年は真実を追い求める探求者の様な目をしている。

「僕は何かを伝えなければならない。」

「何かって?」

「それがわからない。」

「ねえ、あんた名前は?教えてよ。」

「テテロ・ペア・クルス。ペアと呼んでくれ。」

「ペアね、わかった。」

これから何が起こるか分からないのに、少年と少女はどこか楽しそうで、明日本を探すことを、翌日の遠足を楽しみにする子どものような気持ちで向かえていた。

その本には、恐ろしいことが書かれてあるとも知らずに。