はじめの一歩——話題づくりの難しさと「我が家のピアノ自慢」
ピアノ教室の親の会でオープンチャットを始めた当初、何を話題にすればよいか悩みました。保護者の悩みや課題を気軽に共有してほしいと願っても、いきなり個人的な悩みを打ち明けるのはむずかしいもの。最初の一言をどう置くかが、場の空気を決めると感じました。
それぞれの選択——制約の中で整える環境と工夫
そこで最初のテーマに「我が家のピアノ自慢」を選びました。アコースティックを最初から用意できる家庭は多くはありません。多くは電子ピアノを選びますが、それでも紛れもなく「我が家のピアノ」です。予算や防音、設置スペースなど現実の条件があるなかで、音漏れ対策を工夫したり、置き方やマットを見直したり、少しでも良い環境を整える努力が積み重なっています。そこには、今の生活を大切にしながら子どもの学びを支えたいという思いがあります。
そうした一つ一つのご家庭の思いや経緯、選択に至るまでの過程やこだわりなどを率直に打ち明けていただき、お互いに共有し合うということは、意外にもピアノという楽器に対する愛着や親しみを深め、さらに広げていくことにつながるのではないかと考えたのです。
共有が生むつながり——写真とエピソードが広げた対話
このテーマは想像以上の反応を呼びました。これまで発言の少なかった保護者も、自宅のピアノ写真を添えて楽しそうに投稿してくれました。写真には、発表会の記念品や賞状、好きな小物が並び、家ごとの物語が見えます。「どのモデルか」よりも、「この場所で誰とどんな時間を過ごしてきたか」が伝わる。眺めているだけで、ピアノが家族の中心で呼吸しているのが分かりました。
気づきの転換——「代用品」を超えて見えた保護者のまなざし
私は、生のピアノが当たり前で、電子ピアノは代用品だとどこかで思っていました。けれど、アップライトでも電子でも、その背後には生徒と保護者の思い、選択の理由、日々の工夫がある。楽器は条件の優劣で測れない、暮らしの中で守られてきた大切な一つなのだと気づきました。
他者の視点を知ることは簡単ではありませんが、写真一枚の共有が心の距離を縮め、楽器への愛着と学び合いを広げてくれました。
