ピアノ教室は、一般的なサービスや商品販売とは大きく異なり、そこには教える側、学ぶ側、そして費用を負担する側という三者の複雑な関係性が存在します。
特に子どもを対象とした指導においては、レッスンを受ける生徒と費用を支払う保護者が異なるため、「先生―生徒―保護者」の三者関係のバランスがとても重要です。どれか一つの信頼が崩れてしまうと、ピアノ学習の継続そのものが難しくなってしまいます。
このような場では、単にピアノの演奏技術や知識を伝えるだけでなく、「人と人」としての深い関わり合いが求められます。指導者として成長を支えるためには、生徒だけでなく、その成長を見守る保護者のものの見方・考え方を理解し、一緒により良い教育環境を築き上げていこうとする姿勢が必要だと感じています。
そしてその過程には、意見の違いに向き合い、ときには難しい対話を重ねていく覚悟も欠かせません。こうした関係性を丁寧に構築していくことで、初めて本当の意味でのピアノ教育が成り立ちます。
それは単なる「ビジネスとしての成功」や「満足度向上」ではなく、もっと根本的に、生徒一人ひとりの音楽的・人間的な成長を支える基盤となると思います。
私自身、かつては多くの課題に悩み、
・突然の生徒退会や相談がない
・自己開示してもらえない
・思うように協力が得られない
・楽器を買ってもらえない……といった問題に直面し、そのたびに「指導者として力が足りないのでは」と自分を責めていました。
しかし、NLPに出会い、学びを深めていく中で、まずは自分自身がどんな反応をしているか、どんな瞬間にネガティブな思い込みが生じるかという「自分の内面」を観察することから始めてみました。生徒や保護者への反応をぐっと抑え、その言葉や行動をできる限りフラットに受け止める練習を経て、少しずつ相手の背景や事情が見えてくるようになりました。
退会の相談がある際も、以前はただ「何がいけなかったのだろう」と自分を責めてばかりいましたが、観察と対話を重ねるうちに、交渉力の高い方や家庭の事情を持つ方、そもそも私が介入できない領域も確かに存在するのだと認識できるようになりました。「良好な関係」を目指す時期もありましたが、今では単なる「仲良し」ではなく、ピアノをどう教育として捉えていくのか、という本質的な対話こそが大切だと思うようになっています。
現在私が重視しているのは、保護者一人ひとりの価値観や認知のクセに耳を澄まし、それを踏まえて私自身の経験と重ね合わせながら真摯に対話をすることです。単なる同調や表面的な関係維持ではなく、それぞれの違いや思いを理解し合うこと、この積み重ねが、子どもがピアノを長く続けられる環境づくりには欠かせません。この学びや気づきが、今の私のピアノ教室運営を根底から支えています。
