ピアノ指導者として、保護者とのコミュニケーションに悩みを持つことがよくあります。多くの場面で「どうやって伝えればいいのか」「どんな言葉を選べば誤解されないか」と方法論ばかり考えてしまいがちでした。でも最近、その考え自体が実は根本的な解決にはつながっていないのではないか、と感じるようになりました。

 

トラブルやすれ違いが起きると、つい相手の反応や態度に目を向け、「どうして分かってもらえないのだろう」と感じてしまいます。しかし、本当はその裏で、自分自身の中にある「こうであるべき」という価値観や思い込みが働いていることに気づかずにいることがほとんどです。

 

つまずきの本質は、伝え方のテクニック以上に、まず自分自身にどんなフィルターがあるか、自分の感情や反応をどのように受け止めているかに隠れている――そう気づいた瞬間から、私の基盤づくりの視点が少しずつ変わり始めました。

 

「歩み寄る」「寄り添う」とよく言われますが、それは単なる優しさや譲歩ではなく、実は自分自身を救うことなんじゃないかと思うのです。保護者の話に耳を傾け、その背景や感情の揺れに目を向けられるようになると、相手のためだけではなく、自分自身も楽になります。「保護者と良い関係を築くのが大事」と分かっていても、自分の中にある思い込みや防御反応に目を向けない限り、表面的なコミュニケーションで止まってしまうのです。

 

これまで私は、相手の気持ちを変えようと頑張ってきた気がします。けれど、保護者自身がなぜそのような結論や発言に至ったのかを一緒に考えてみると、そこにはその人なりの痛みや葛藤があることに気づきます。そのプロセスを理解しようとすることは、結局自分自身の見方を広げ、少しずつですが、物事を冷静に受け止められる自分に変わっていく道でもありました。

 

だから今、保護者の気持ちに完全に「寄り添う」ためというより、むしろ自分が穏やかでいられるため、ブレずに指導を続けていくために基盤づくりが必要だと感じています。NLPなど実践心理学を学び、まず自分の価値観や思い込みから距離を置いて観察する練習をしていく。その積み重ねが、「保護者との信頼関係を築く」というより、結果的に自分を守ること、自分自身が長くピアノ指導を楽しみ続けるための土台になるのだと思えるようになりました。

 

保護者や生徒のためだけでなく、結局は自分の心や人生をより自由に豊かにするための“基盤づくり”だという見方が、今の私の支えになっています。