クロスファイア 〜その四〜 | しあわせ検索エンジン

クロスファイア 〜その四〜

それから一年がたって…

猫の料理は食べれるくらいまで成長した。

アタマのほうは、もともと良かったんだろう。
いや…そうとう頑張ったんだと思う。

オレから見ればあっさりだった。
大検とって、今年から大学入試だ。

工業系の大学に行きたいようだった。

猫のほうは、コンビニのバイトで入学金くらいはすでに貯まっていた。

オレのほうは、元金の減らない返済を続けていた…

それでも、家に帰ると誰かが必ず待っている生活に幸せを感じていた。
普通にいうところの同棲とは少し違った共同生活はそれなりに楽しかった。

夏がすぎて秋になろうという頃…
受験生には大事な時期。

家事の負担を減らしてやる。
掃除や洗濯は、なるべくオレがやるようにした。

涼しい夜に猫が思いつめた顔でオレに通帳を渡す。
残高 115万円と少し…

頑張ったな!
これだけ貯まってるなら、春までバイト辞めて勉強に集中してもいいんだぞ。



黙り込む猫。

しばらくして、

やっぱり大学は行かない…
これじゃ足りないけど少しでも借金返して!

少し考えて、

…ダメ!ムリ!

オレはその申し出を一蹴する。
ありがたい話だが、それだとオレが報われない。

この話はとりあえずオレが強引に終わらせて、猫はおとなしく受験勉強に励む。

確かに、いつまでも減らない借金を抱えて生きていくわけにはいかない。

どうすればいい?

それから、毎日のように一発逆転を考えるようになった。

12月。車の車検がくる。
通勤は徒歩。
買い物も車では行かない。

維持費を考えると手放すのが自然かな…

どんなタイミングで、それを思いついたかは覚えていない。

思いついたら、既に動いていた。

この手法は完全に違法なので、詳細は話せない…

要は車を使って三百万作った。

というか、実際には四百万作ってこの減らない借金から解放されて、ちゃんと減っていく借金に変えた。

毎月の支払い日に揃えた現金を持っていく。

とりあえず、利息分を払う…

簡単に完済させてくれるとは思えなかった。
喉がカラカラになりながら、引きつった声で、

今、完済するとしたら…
三百万、用意できたら終わりにできますか?


持てるだけの勇気を振り絞って聞く。


◯◯ちゃん…
あんた、真面目だよね…
毎月キッチリ払いにくるし…
だから、ダメ…

少し間をおいて、

コッチも取り立てに行かなくていい客は楽だから…
◯◯ちゃんは大事な客だからね。笑


人生終わってるな…なんて思いながら精一杯の絶望にひたる。

諦めきれずに、立ち上がれずにいると、


まぁ、△△さん(オレの会社の名)とこの人だから、手切れ一割。
今日中に用意したらアレ返してもいいかな…

明日には気は変わるから今日ならね。


絶望が希望に変わる。
まずはアレが本当に返ってくるか確認したかった。

丁重にお願いしたら、アレが出てきた。

間違いない。
オレが書いた借用書。
もう二度と書けない字で署名がしてある。

この借用書を手にしたまま、鞄から三百万と五十万ほどを差し出す。

相手は驚いた顔で、


もう持ってきてたんだ…
先に出せば良かったのに…

オレは、

これで、コレ貰って帰ってイイですか…

と言うと、

いま確認するから待って…

と言って金を数える。
数えながらチラチラとオレを見てる…
オレは下を向いて待つ。

うん。ちゃんとあるよ…
ちょっと多いね?笑
多い分はソレと交換ってのはどう?

と言ってオレの左胸を指差す。
心臓が止まるかと思った…
一瞬止まったような感覚だった。

この時の為に、昨日買ったばかりのボイスレコーダー…
気づかれないように、薄くて、音がしなくて、、、いろいろ慎重に選んで買ったヤツだった。

オレがソレを差し出すと、

三十万をオレにくれる。



オレが持ってココに来たのは三百五十万。
算数できないの?
なんて言ってたら、いまオレは生きてないと思う。笑

不思議な顔で相手を見ると、

お疲れさん。◯◯ちゃん。
寂しいな…これで終わりか。
猫ちゃん元気かい?
大学受かりそう?

誰にも言ってない。
オレと猫しかしらないハズだった。
なんで…
なんて、一瞬思ったけど、すぐに考えるのをやめた。
北の繁華街ススキノ。
そんな街だ…

…はい。

それだけ言って部屋を出る。
左手には借用書。
右手には希望。

鞄に残る三十万は彼らなりのご祝儀かな…

空を見上げたまま少し歩いて、ひとつ信号を渡った。
一気に解放された気分になって、猫のいる部屋に全力で走って帰る。

息を切らせて帰ってきたオレに驚きながらも猫は、

おかえり~!
どした?早すぎでしょ!
ごはんまだできてないよ…笑

なんて言ってたっけ…

オレはクシャクシャになった借用書を猫に渡して、

火!燃やせ!

?顏の猫に、

いいから燃やせ!

うしろめたさから従順だった猫を解放したかった。

火をつける前に確認して、コレが何かが猫にもわかったようだった。

ウソ!マジで!
すごいよっ◯◯ちゃん!
やったー!

ふたりで灰皿で燃える借用書を見ながら感傷にひたる…

借金がなくなったわけではないけど、この紙がなくなる意味をふたりで共有して、この一年と少しを振り返る。

この共同生活はお互いにとって辛いものではなかった…

だから、涙はなかった。

二年ぶりくらいに本当の笑みが出た…気がする。

ふたりでスーパードライの瓶を開けて乾杯する。

暗闇の中に光る一点を捕まえた気になれた夜だった。


続く…

次回、最終章。



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