電子レンジが完全に壊れたので捨てることにしたのですが、粗大ゴミは捨てるにもお金がかかるのがこの国のシステムです。

僕の住んでる区では、粗大ゴミ受付センターに連絡し、捨てる日取りを決め、コンビニで粗大ゴミ用シールを買い、名前を記入して貼らないといけません。

そのことが、僕を憂鬱にさせました・・。

買うことにお金を使うことはわかっても、捨てることにお金を払うのはなんか悔しい!というのが悲しきドケチ人間の性分なのです。

やり場のない思いを抱え悩んでいたら、粗大ゴミシールを買いに行くことに何度も二の足を踏んでしまい、気がつけば季節が一回りしていました。

その間に優しい友人からタダで新しい電子レンジを譲り受けたので、持って帰ってきた余分の楽屋弁当を温めることには困りませんでした。

しかし、ただでさえコントで使う夥しい数の小道具に埋め尽くされていた狭いぼろアパートの一室が、古い電子レンジでさらに体積を占めてしまい、スラム街のごとく足の踏み場もない過密状態となってしまいました。

何とかならないものか・・

毎日粗大ゴミのことが頭から離れず、暗澹たる日々を送っていました。

出口のない暗闇をさまよい続け、境遇に絶望しながらも日常は流れます。

そう過ごしていると、

先日家を出たとき、アパートの共同スペースに置かれた物を見て、僕の脳天は稲妻に打たれたのです。

綺麗な収納ダンスが捨ててあったのです。

僕の世界は静止しました。

うそだろ・・

透き通るような白色に、5段もある引き出し。

一瞬にして瞳孔が開ききり、美しい収納ダンスに釘付けになってしまいました。

僕は収納ダンスに一目惚れしてしまったのです。

いったいこの収納ダンスの持ち主は・・。

僕は息を飲み、粗大ゴミシールに記入された名前に目をやりました。

「○○ ○子」

いつもお世話になっている隣のおばちゃんだったのです。

これは運命だ・・

僕はすぐさま踵を返し、隣のおばちゃんの家のインターホンを押しました。そして出てきたおばちゃんに、高鳴る鼓動も押さえ切れぬまま言いました。

「あの収納ダンスを・・・僕に下さい」

緊張のレベルは「娘さんを僕に下さい」ばりでした。

おばちゃんは快く了承してくれました。

いつもカップラーメンや缶詰めをおすそ分けしてくれる隣のおばちゃんから、ついに収納ダンスまでおすそ分けして貰ったのです。

僕はすぐさま収納ダンスを、お姫様抱っこして家に入れました。

散らかってるけどごめんね。

彼女は何も言いませんでした。

そして床に散乱していた小道具を、5段ある引き出しにそれぞれしまい、部屋はすっきりし、ゴミ屋敷同然だったことが嘘のように広々とした空間に変貌を遂げました。

どこからともなく「劇的ビフォーアフター」の音楽が流れていました。

そして仕上げです。

収納ダンスに張ってあった粗大ゴミ用シールを剥がします。

しかし、粘着力が強く剥がれません。

僕と収納ダンスの初夜です。彼女の声が聞こえて来ました。

「優しく剥がしてね・・」

僕は静かに頷きました。

シールの角を爪で少し剥がして、そこにドライヤーを当てて接着面を温めます。そして何分もかけて温めながら、ゆっくり優しく剥がすのです。焦ってはいけません。

「痛くない?」

彼女は目をつむりながら頷き、僕に全てを捧げていました。







果てた後、彼女は静かに佇んでいました。その表情は幸せに満ち溢れていました。

そんな彼女を横目に僕は最後の仕事に取りかかります。

剥がしたシールをどうするか。

捨てる電子レンジに張るのです。

そしておばちゃんの名前を修正液で消し、

その上から僕の名前を書き、

粗大ゴミセンターに連絡し、電子レンジを捨てたのです。

僕は無料で収納ダンスを手に入れ、タダで電子レンジを捨てることに成功したのです。

長きに渡った悩みが解消され、灰色に曇っていた僕の心は雲一つなくに晴れ渡りました。

しかし、電子レンジを外に運び出し清々しい気持ちで部屋に戻ってきたとき、部屋に張り詰めた空気が流れていたのです。

何気なく収納ダンスに目をやると、この不穏な空気の元凶は彼女だということがわかりました。

口を真一文字に閉じた彼女。

すると、彼女の声が聞こえてきたのです。

「シール目的だったの?」

・・ち、違うよ!・・君が必要だったんだ。







長くぼろアパートで一人暮らしをしていると、幻聴が聞こえてきて困ります。







金が欲しい!!






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