孟村八極拳7世 掌門人・呉連枝(ごれんし)老師による四朗寛(しろうかん)伝習会に参加しました。

 

(1)はじめに

 孟村八極は、呉氏開門八極とも言われ、現在数種類に分派している八極拳の源流になるもので、約300年の歴史を持ちます。

 現在、中国では無形民俗文化財に認定されています。

 呉連枝老師は、開祖呉鐘(ごしょう)直系の7代目にあたる人物で、世界に広く孟村八極を公開されました。日本には2000年から来日されています。

 「開門」には、考え工夫するという意味と、広く門徒を開くという意味があります。

 

(2)基本的な枠組み

 

 中国の事象は、陰陽・五行・八卦等、『易経』の哲理によって理論構築されるものが多く、八極拳もその例外ではありません。

 また、修行を積み重ねることで、「道」(タオ)という境地に至っていくという道教(老荘思想)の考え方があります。

 それゆえ、套路や修練は、中国の古代思想・哲理の表現・実現の一つの形ともいえます。

 

 また、東洋人体学の考え方である、五臓六腑の内気(=陰陽五行説(五行の気))も用いられます。

 この点について、これまで呉連枝老師は、外国人(含日本人)に対しては、西洋人体学的な観点や物理的な側面からの説明に留められていましたが、今回初めて、発力において五臓六腑の内気も用いることを説明されました。

 

    

 

(3)八極における四朗寛

 四朗寛は、開祖呉鐘から伝承されている套路です。①小架、②単打・対打、③四朗寛の3つが出来てはじめて八極拳のスタート地点に立てるとされています。(呉連枝氏:「呉氏開門八極拳の套路には、様々な歴史的変遷があり、かなり多くの套路が流入してきていますが、あくまでもその基盤は、三位一体の、八極小架、八極単打・対打、四朗寛ということになります。ですからこれ以外に残されているものについては、やりたければやるというくらいの気持ちで構わないと思います。」)

 小架には八極拳の全ての基本的要素が含まれ、単打で縦の動き(両義(=天地)の変化)、四朗寛で横の動き(四象(=東西南北)の変化)を練習します。

 四朗寛は他の八極門には伝えられておらず、他の八極拳と呉氏八極拳の風格が大きく異なることとなった要因と言われています。

 

(4)四朗寛の特徴

 ①四朗寛の「四」とは四象、東西南北を意味します。四方の横の動きや変化。

  より深く言えば、複数方向からの攻撃に対する防衛の方法を意味しています。

 ②十大形(十種類の動物象形の身法)が用いられます。

   龍、虎、猿、鶴、熊、蛇、鶏、鵬、駝、鹿(、羊、馬)

  中国では10又は12の動物の象形を基本にする考えがあり、四朗寛でも10種類以上の動物の象形動作が取り入れられています。

   

 

(5)動作上の要訣

 沢山の要求がありますが、「童子拝観音」という動作を取り上げたいと思います。

 これは、仏を拝む姿(両手は拝み左足は組む姿勢)のため、仏教徒以外の人は「中堂立」等の違う動作に変更します。

 

(6)八極スピリット

 最近、八極ブームが広がりつつあります。

 技術的に優れていること、東洋哲学の体系である套路に歴史やロマンを感じられることが大きな要因です。

 また、八極を通じて、中国の文化を学び、他地域・諸外国の人との交流ができる点にも意義が見出されます。

 そして、愛好しているどの人においても、等しく其々の心の中にあって、生きがいや寄る辺の1つになっているように感じ取れます。

 

 

 ☝呉連枝老師より書をいただきました。

「文有太極安天下 武有八極定乾坤」

(文には太極が天下を安定させ、武には八極が世界を安定させる。)

 

 

☆【四朗寛全動作名称(呉連枝伝)】

1.揺錘

2.盤胯

3.臂錘

4.叠手

5.貫耳叠手

6.盤頂

7.定陽針

8.雲抄

9.縮盤抱

10.﨎羊頂

11.縮胯

12.単劈

13.一歩頂肘

14.挑提

15.前塌

16.楼膝

17.左右叠手

18.衝天炮

19.穿袖

20.穿林行歩

21.翻身揺膀胯

22.虎口掌

23.単起手

24.単搓

25.跪膝

26.腰身翻打

27.腰身窩里炮

28.順歩単提

29.横鐘

30.蹲地鍾

31.騎馬単頂

32.叠手

33.退歩獅子大張口

34.撩膀胯

35.撩膀反胯

36.抱肘

37.抽別子

38.蹲抱提弾

39.亮翅提

40.穿抱

41.臂子錘

42.退歩左右猴提

43.縮馬蹬蹄

44.獅子大張口

45.弾錘

46.頂肘

47.提胯摘盔

48.臂錘

49.雲抱

50.抽別子

51.提欗牽膀胯

52.翻身拽打

53.臂錘揺膀胯

54.提欗摘盔

55.翻身揺錘膀胯

56.雲抱掃堂提

57.弾提

58.揺膀胯

59.縮腰抱

60.疊手掛塌

61.鶴形提

62.翻身穿袖

63.行走三歩半

64.童子拝観音

 

 

☆【四朗寛拳孟村八極拳老譜記載歌訣六言(呉連枝伝)】

  拳起叠手左右翻  拳落定樑鎖下盤

  点档腰歩三点手  亮翅盼前亦顧後

  獅子張口掛塌進  単連童子拝観音

(訳)

 拳を出せば、叠手を使い、左右に翻す

 拳を下ろして、自分を安定させ、相手の下盤をおさめる

 相手の急所を突き、腰足で進みながら、三点手を使う

 亮翅をするとき、前後に気を配る

 獅子張口をしながら掛塌で進み、続けて童子拝観音をする

 

 

 

 

《これからの呉氏開門八極拳について(呉連枝氏)》

 「まず、八極拳愛好者は互いを尊敬し合い、八極拳を広めていかなければいけません。保守的にならず、多くの人々にその技術・精神を伝え、皆で開門していかなければならないと思います。呉家の八極拳も、昔は絶対に他人には伝えないようなものもありましたが、現在ではすべて開放しています。これは私自身の経験から、こうすることが八極拳のためによいと判断して実践していることです。例えば、現在各種拳社が、日本で武術を愛好する多くの人々に向けての活動を積極的に行っていることは歓迎されるべきことだと思います。最後になりますが、我々が現代の社会の中で伝統武術を学ぶということの意義は、大きく分けて4つあります。その一つは、まず身体を頑強に、そして健康にすること。二つ目は、武術を通じて友を増やすこと。三番目は自分の身を守るということ。そして最後が、人道を守るということ。これらのことを忘れずに、皆さんも日々の練拳に励んでください。」