遠い遠い、常冬の世界に
サンタクロースの国がありました。


サンタクロースたちは
一年に一度のクリスマスの日に
みんなにプレゼントをすてきな届けるため
いつでも忙しく走り回っています。


毎日のように届く願いごとの手紙を読んだり

プレゼントの箱の中にわくわくの星を詰め込んだり

世界中をひとっ飛びできるトナカイたちの世話もかかせません。



でも、最近は少しずつ
サンタクロースへの願いごとの手紙がへってきていました

自分でものを手に入れられるようになったひとたちは
たくさんのものを管理するのにいそがしくて
たった一日だけの小さな奇跡のために
わざわざサンタクロースに手紙を書こうと思いませんでしたし、
ものを買う余裕のないひとたちは、手紙を書く余裕もなかったのです。


「あぁ、今日も手紙は届いていない」


サンタクロースたちはとっても働きもの


このままでは退屈すぎて、背中にコケが生えてしまう!


毎日、空っぽのポストをのぞきながら
サンタクロースたちは今日もため息。

手紙が届くのを、毎日心待ちにしていました。


けれどポストは空っぽ

今日も

明日も

また次の日も・・・


ある日、ひとりのサンタクロースが言いました。

「どうやら、世界はわれわれのことを忘れてしまったようだね」


おヒゲの長いサンタクロースは答えます。

「そうだなぁ。みんな、我々に手紙を書くことをやめてしまった」


「わたしたちの仕事は、もう役目を終えているのかもしれないね」


まるまると太ったサンタクロースが、寂しそうにいいました。


その時、ある若いサンタクロースが立ち上がって、みんなを見渡しました。


「それならば、僕たちは新しい仕事をしましょう」


「新しい仕事だって?」

「それはどんな仕事だい?」

先輩のサンタクロースたちは興味津々。
若いサンタに尋ねます。

「僕たちの今までの仕事では、
 人に喜びを届けられるのは1年でたった1日だけ。
 だから、新しい仕事では、毎日人に喜びを届けたい」

若いサンタクロースはにこにこしながら答えました。

「それじゃあ、毎日プレゼントを探して、世界中の人々に届けるのかい?」

「さすがにそれは、我々だけでは難しいだろう」

先輩のサンタクロースたちは、口々にそう言いました。

みんなとっても働きものでしたから
新しい仕事ができるのはとても嬉しかったのですが
それはあまりにも夢のような話だと思ったのです


その時、長老のサンタクロースが
のそりと立ち上がって言いました。


「そうだなぁ
 我々は、ずっと長い間、ひとびとへプレゼントを贈ることを喜びにしてきた。
 けれどどうやら、今の世界に必要なのは少し違う形のようだね」

こういうのはどうだろうね、と長老は続けます。

「我々は必要なひとの元へ必要なものを送り届ける仕事をするのだ」

サンタクロースたちは首をひねります。

「長老、それでは、今までの我々の仕事といったい何が違うのですか」

長老は優しく答えました。

「今までは、我々がすべての贈りものを創りだしていたね。
 けれど今度は、人々が創りだしたものを人から人へ、
 それぞれが一番必要とされている場所へ届けるのだよ」

長老の言葉を、サンタクロースたちは目を輝かせながらきいています。

「我々はどこへでもいくことができるし、働くことが大好きで、
 人々へ喜びの届け物をすることが大好きだ。
 きっとこの新しい仕事は、我々にとっても世界にとっても、
 楽しく、実りの多いものとなるだろう」


それはいい、と、サンタクロースたちは歓声をあげました。


「我々ならばどこにでもいけるトナカイと、なんでも入る魔法の袋で
 どんなものでも受けとって、それを今、一番必要としている人のところへ届けることができる」

「そうしたら、この世界の全てが、誰かにとって必要なものばかりになるね」

「そうだ。そしていつでも必要な時に必要なものが届くようになる。
 世界の全てが、誰かにとって必要なものに生まれ変わるのだ」


そうして、とっても働きもののサンタクロースたちはさっそく新しい仕事のきまりをつくりはじめました。

「ひとびとの願いは風に頼んで、我々の元まで運んでもらおう。
 風ならば、文字をもたないひとたちや
 たったひとりで暮らすひとたち
 赤ん坊や死のふちにいるひとたちの声だって
 我々に届けてくれるだろう」

ヒゲの長いサンタクロースがそう言ったとたん、

ビュービュービュー!

こたえるように、風が窓ガラスをガタガタと揺らしました。


「やぁ、風もやる気のようだ」


サンタクロースはにっこりと微笑みます。

これでもう、人々は手紙を書く必要もないし、
サンタクロースたちはどんな願いも聞き漏らすことはありません。

人々はただ、心の中で必要ないものを選んで誰かに届くようにと風に渡し、
必要なものがある時は、ただそれを受けとればいいのです。


サンタクロースたちは出来上がったきまりを高くかかげて
外へ向かって叫びました。


「さぁ風よ、我々の宇宙宅急便が始まったことを、世界中のひとびとに伝えておくれ」

「どこまでも遠く遠く吹き渡り、どんどん世界へ伝えておくれ」


声はどんどん大きくなって

そうして国中のサンタクロースたちが

一斉にさけびました。



『サンタクロースの宇宙宅急便のはじまりだ!』



大きな歓声をききながら
ふわり、風はサンタクロースの国を飛び出していきました。


ビュービュー

ヒューヒュー

ビュービュビュー


遠く遠く

高い高い山を越えて

広い広い海を越えて



ビュービュービュー



どこまでも

どこまでも

どこまでも



ビュービュービュビュー

ヒューヒュー

ビュービュー


”宇宙宅急便のはじまりだ!”


ビュービュービュー!


サンタクロースたちの願いを乗せた風は、
今日もわたしたちの世界を吹き渡っています。