3月15日付『中央新聞』にこんな記事が。
探査追跡・教室イデア2019 【2】傷ついた教室
「江北は無関心、江南は過干渉…心を病む子供たち」
「江北」とはソウルの中心を流れている漢江(한강/ハンガン)より北の地域、「江南」は漢江の南ではあるが、中でも江南区、松波区などの特定の地域を示すことが多い。
ドラマ『SKYキャッスル』の舞台となった、教育熱の異常に高い地域である。
江北地域にも一部、教育熱の高い地域が存在するが、江南のレベルにはいろいろな意味で追いつかない。
でつまりこの記事は何かというと、ソウルの子供たちは病んでいる、と。
上の記事中にある統計グラフを拡大してみると…
●上のグラフ
2015~2017年 Weeセンター
全体学校クラス・個人相談件数
2015年 32万516件
2016年 35万7336件
2017年 36万6107件
●下のグラフ
主要主題別相談件数
(資料:韓国教育開発院)
赤線 精神健康 2017年 11万9593件
青線 学業・進路 2017年 8万552件
緑線 対人関係 2017年 5万4448件
グラフをみると、年々相談数が増えており、中でも精神面での相談件数が非常に多いことがわかる。
そのこと自体も問題だが、最近では「自害」そのものの数字はここ数年横ばいであるものの、親や教師の気を引くための
自害の試みがトレンドのようになっているという、江南のある教師のコメントが。
また、見出しにあるように子供たちが心を病む原因として、江北地域では親の無関心、対する江南では親の過干渉。
江北の無関心の原因はどこにあるのか。
私自身が二十数年、ソウルの状況を見てきて実感することでもあるが、私教育に異常に費用がかかり、大学の学費も決して安くはないこの国では、子供に勉強をさせようとすると
親が共働きをして一生懸命稼ぐしかない。
母親たちも、子どもが小学生ぐらいまでは、江南レベルまではいかずとも日本人には想像できないほど子供に過干渉だが、中学生以降になると、とたんにその熱が冷めてしまうようなところがある。
一つには、中学に入った時点で、「ああ、これはうちの子にはSKYは無理だ」といったあきらめというか現実把握。
子どもが小学生ぐらいまでは江北の母親たちも、「うちの子だってSKYに行けるはず」という期待感に満ち溢れているため子供優先の生活が可能だが、中学に上がる頃にはじょじょに「現実」が見えてくる。
結局、江南の経済力や情報力、ネットワークに勝つなどということは並大抵のことではないのだ。
かといって、大学進学そのものを諦めるというわけにはいかない。
SKYはだめでも、なんとか「インソウル」の大学には送りたい。
そうなると、金が必要なのである。
子どものほうも、小学生まではなんとか親のいうことを聞いているが、中学に上がったとたん親のいうことを聞かなくなることが多い。
それは思春期、自我の確立過程という自然の現象でもあるわけだが、同時に、それまで親のいうことを聞きすぎてきた分、反動も強く、韓国では中学がもっとも暴力で荒れている。
校内暴力、うつ、自害など、さまざまな問題が一気に噴き出してくるのが中学以降であり、そのために親が手をつけられなくなった結果としての無関心という世界もあるような。
記事は、「『今生徒たちに必要なのは入試コンサルティングではなく、メンタル面での健康コンサルティングだ』と専門家は語っている」とか述べているが、そんな当たり前のことを言わんでほしい。
この教育環境の中で心を病まない子どものほうがすごい。
まあしかし、韓国ではまだまだ親たちも子どもの心の問題に関しては無頓着であることが多い。
一つにはやはり生活にゆとりがないし、また、精神的問題に対する知識不足ということもある。
まそれに、これだけ幼児期から子どもの教育にかけてきて、それが学業面での結果につながらないだけでも辛いのに、さらには「心の問題」まで抱えているという現実を直視するのは口で言うほど簡単なことではなかろう。
逆に江南では、『SKYキャッスル』のごとき親の過干渉と、成績下位の子供に対しては「役立たず」という評価をなされることが心の病を引き起こす原因とされており、こちらのほうも心が痛い。
同じ特集記事には、このような記事も。
専門家「日本のような下流化現象の現れ」
OECD加盟国を対象にした「国際学業達成度評価」(PISA:満15歳対象/3年ごとに実施)において、韓国は常に上位を維持してきたのだが、2015年の「読み」領域で最下位成績者の割合が2000年の5.6%→13.6%と急増するという結果に。
中間層の下落が目立つ形となったわけだが、専門家はこれを経済の下流化と結びつけ、さらには日本の下流化現象の後を
たどっている?とする。
う~む。
この下流化現象が江北地域の「親の無関心」と関連なくは
ないだろうなあ。
さらにはこちらの記事。
「塾の講師がモーニングコール…モク洞
高3『クラス30人のうち、起きているのは10名だけ』」
モク洞というのは、江北の中で教育熱が非常に高い地域の一つ。
学校は単に「出席した」という事実のために行くところとなり、本来の「学校の役割」は崩壊しているということを伝える内容である。
記事内の円グラフは、ある高3生徒の一日の日課表。
朝6時 起床・登校
↓
8時~4時 授業
↓
4時半~9時半 (学校にて)夜間自律学習後、下校
↓ ※金曜日:6時半~10時 数学塾
10時半~1時 自宅学習
↓
夜1時 就寝
となっているが、塾に週1回しか行かない生徒など実際にはあまりいないのでは。
多くは、放課後の学校での「夜自」(야자/ヤジャ:夜間自律学習の略)の後に塾に行ってさらに勉強し、帰宅が深夜1時頃。
その後さらに自宅でも勉強して睡眠時間は3~4時間、というのが一般的な受験生の様子ではないだろうか。
記事にはその他に、月収が25~30万円という「上流層ではないが、下流層でもない」家庭においても、親が生存ために
働くのに忙しく、子どもの教育にまで気が回らない様子や、
成績上位の子供でも入試の結果が心配で不眠症の高校生の様子などが書かれており、既存の事実とはいえあらためて「韓国もつらいなあ」と思う。
SKYの次に目標となる「イン・ソウル」の大学すら、ソウル市内の高校から進学できるのはクラスの上位数名。
クラスの半数程度は浪人して再受験するというのが現状である。
そういった中、近年は韓国の教育環境に見切りをつけ、東南アジアやニュージーランド、カナダなどに移民する家族の姿も目に付く。
また、アイドルやヒップホップの台頭で、小さな頃から歌やダンスなどの方向に向かわせようとする動きも。
20年前、10年前に比べたら、やや「独自の道」を認める方向に動いていることは肌で感じる。
変化も確実に起こっているのは事実だ。
常に思うことだが、韓国の子供たちは、生涯に一度は
日本の学校で学んでみたらいいし、日本の子供たちも韓国の学校で学んでみたらいい。
韓国の子供たちは、日本のように多様性を認める世界を
経験してみたらいいし、日本の子供たちは目的のためにここまで必死になれる世界を体験してみたらいい。
それが各自の可能性を無限大に広げてくれるかも。
そういえば、昨日、偶然知り合った韓国人主婦からこんなことを言われた。
「日本は先進国だから、韓国よりもっと勉強してるんでしょう?」
してませ~ん!
こういう認識の差を少しでも埋めるためにブログやYouTubeが役に立てばいいいなあ…と切に思う私なのであった。
(まき)