子どもと私だけが、家にいた日。
 
子どもは、3歳。
私の膝に甘えながら、
可愛い声で、言いました。
 
 
「ぼくはー、
生まれてくるまえー、
地球のうえをー、
 
ぐるぐる、ぐるぐる、
まわってたの!
 
それでぇー、
おかあしゃんをみつけてー、
 
おかあしゃんのことが、
だぁいしゅきになっちゃったの!
 
おかあしゃんのことがー、
だぁいしゅきになっちゃったからぁー、
 
だから、きちゃった!
 
 
おかあしゃん!
僕と、結婚しましょ!」
 
 
 
えええー!?
 
 
生まれてくる前に?
 
おかあしゃんを、見つけて?
 
おかあしゃんのことが、
だいしゅきに??
 
そんな…
甘美過ぎて倒れそう…。
 
 
 
子どもはころころ、すりすり甘えて、
にこにこ満面の笑みで、
私を見上げてきました。
 
 
わあああー…
 
わたし、
どうしたら???
 
どう、こたえたら??
 
 
可愛らしさと愛おしさに圧倒されて、
子どもをキューッと抱きしめながら、
内心、あたふたしました。
 
 
私は、言いました。
 
「可愛い坊やー、
ありがとうー!
おかあさん、嬉しい!
おかあさん、すごぉーく、嬉しい!
おかあさんも、坊やが大好きだよー。」
 
 
子どもは、きらきらぱちくり、
信頼しきった目で、
私を見つめてくれました。
 
 
しかし、
私は、言わねばなりません。
 
 
「でもー、おかあさんねー、
おとうさんとー、
結婚してるの。
 
おかあさん、
おとうさんと、結婚してる。
 
だからー、
可愛い坊やとはー、
結婚できないの。」
 
 
子どもは一気に、無表情になりました。
無表情の、無反応。
無言。
 
あれ…?
坊や、聴いてますか?
大丈夫…?
 
 
私の心配をよそに、
子どもは、30秒ほどで立ち直りました。
 
 
にっこり満面の笑み、
またころころ甘えながら、
 
「おかあしゃん!
僕と、結婚しましょ!」
 
 
あーれーー??
やはり聴いてませんでしたか?
私は、どうしたらー???
 
 
私は、胸がいっぱいになりながら、
再度、言いました。
 
 
「可愛い坊やー、
ごめんねー、
おかあさん、
おとうさんと、結婚してるの…」
 
 
子どもはまた一気に無表情に。
無反応で、無言。
 
 
きゃー、こういう場合は、
どうしたらいいのかしらー??
 
 
数十秒後、
また立ち直る子ども。
 
甘い声で、
「おかあしゃん、
僕と、(以下、略)」
 
 
押し問答の末、
子どもは通常業務(?)へ。
 
おもちゃの部屋へと、
遊びに行きました。
 
 
 
夜、夫が帰宅し、
私は、かくかくしかじかと、説明。
「ちゃんとお断りしたよー」
と、言いました。
 
夫は、えー?とびっくりしながら、
「うん、ありがとう!」と言いました。
 
そして、こどものもとへ行き、
 
「おかあしゃんは!
おとうしゃんの!
おかあしゃんはっ!
おとうしゃんのっ!」
 
と、何度も言い聞かせていました。
(私はなんだか、すごく嬉しかった…。)
 
子どもは、
ぶすっとしていました。
あれは、
聴く気のない顔でした。
 
 
子どもからは、
このあともしばらく、
断続的に
甘美なプロポーズ(?)をいただきました。
 
 
ある日は、
信号待ちの車の中で、子どもが、
「おかあしゃん、あれ!見て!」
と言います。
 
見れば、
あるおうちのお庭、
放置されたようなお庭でしたが、
そこに、白い花が
あふれんばかりに咲いていました。
 
 
「きれいねぇー…」
私は感嘆して、言いました。
 
子どもも、
「きれいねー!」と言い、続けて、
「おかあしゃん、白いお花、しゅき?」
と尋ねてきました。
 
 
私は、
「好きだよー、
おかあさん、白いお花、だぁいすき!」
と言いました。
 
子どもは非常に喜んだ様子で、
「よかったぁー!
僕もだよ!
僕も白いお花、だぁいしゅき!
おかあしゃん、
僕と、結婚しましょ!」
 
 
きゃー!
甘さにまた倒れそうになりながら、
 
安全運転!!
同時に、優しく、お断りを…。
子どもは、無言。
 
 
ごめんね、愛しい子よ。
母は、父と、すでに結婚しています。
 
 
 
このプロポーズ。
数年後のある日から、パタッと止みます。
止む前に子どもが話してくれたことが
非常に興味深く、
また愛おしく、
私の心に残っています。