私が6歳になり、3か月ほど経った頃。

今にして思うと、時期尚早に感じるのですが、私は、母から、毎週お小遣いをもらえることになりました。


金曜日に、70円。
初めてのお財布も、用意してもらえました。

お小遣いは、もらったらすぐに、お小遣い帳につけることになっていました。
そのお小遣い帳は、入金の書き込みばかりになりました。
私は、貯まっていく硬貨を、いつか、500円札(当時)に替えるのを、楽しみにしていました。

ある日、母と買い物に出かけた私は、アイスクリームが食べたくなりました。
母に、欲しい、と言いましたが、自分で買いなさい、と言われ、がっかり。
トボトボ家まで帰りました。

家で、財布の中身とにらめっこして、私は、30円のアイスを、お小遣いで買うことに決めました。
全財産の入ったお財布を持っていくのは危ないと思い、持ちやすい50円玉を1枚、手に握りました。

母に「自分でアイス、買ってくる」と告げて、私は、徒歩5分の商店に向け、出発しました。
気分はどんどん高揚して、両腕を交互にブンブン振って、スキップしながら砂利道を進んでいました。

すると、50円玉は、私の握りこぶしの隙間から、遠心力で、ぽーんと旅立っていきました。。。
あーっ!!
私は、慌ててそれが飛んだ方へ駆け寄りましたが、何度見回しても、砂利を除けてみても、あるはずの50円玉は、出てきませんでした。

お母さんに、なんて言おう。。。
泣きながら家に帰り、黙っているのがこわくて、母に謝ると、叱られました。
なんで手に握っていくの!?と、怒られました。
もう1回50円が欲しい。。。と、私は思いましたが、母はカンカンで、「見つからなくても知らないからね!」と言いました。

 

50円玉の価値が大き過ぎて、お財布に入れずに持ち歩いた罪の意識が重過ぎて、そして、母の怒りが悲し過ぎて、私は、泣き止むことができませんでした。

母はどんどん不機嫌になり、私は再度、現場に出かけ、夕暮れまで探しました。

暗くなる前に帰らなければいけないのに、どこにもありませんでした。

母は、しばらく、不機嫌でした。


アイスクリームを食べられないまま、500円札が遠のき、お小遣い帳には、変な出金記録がつきました。


切ない体験となりましたが、おかげさまで、以降、私は、お金の管理に気をつけるようになりました。

悲しい記憶は、引っ越したのち、滅多に思い出さなくなりました。

同じような砂利道を歩くときだけ、腕振りして硬貨を吹っ飛ばした自分を思い出し、それはいつしか、滑稽な記憶となっていきました。