「スパイダーマン攻撃で靴を買う」
自転車で町を駆け抜けていた。
スマホにメッセージが届く。
「近くのショピングセンターにおるから来る?」
家内だ。
「了解です!」
メッセージを送り、自転車を走らせた。
10分程度でショピングセンターに到着。
次女と家内と本屋で合流。
「靴を買いに行こう」
その掛け声の後に付いて行く。
そして、靴屋さんに到着。
暇すぎる僕は一応スニーカーを見る事にした。
買ってもらえる希望は薄い。
「パパも買ったら?」
「えっ!マジで!」
僕は喜びを8%くらいに抑制して冷静を装った。
「この靴がいいんちゃう?」と家内。
「パン屋さん巡りの時に疲れへん軽い靴がいい!」
僕のパン屋さん巡りありきの発言に呆れた次女と家内は無言になった。
「もし、途中で足が痛くなって、7件訪問の予定が5件になったらどうするねん」
「足が痛くなって、あのパン屋さんで、あのパンを食べたいと思ってたのに行かれへんかって、家でイライラしてもいいんか」
「そんなんやったら、家族も困るやろ!そんなことやろ!」
その時、僕の心の声を打ち消すように、店員さんが僕の希望サイズの靴を用意してくれた。
店員さんは靴紐を緩め、靴を広げて履きやすくしてくれた。
僕は靴にゆっくりと足を滑らせる。
店員さんが靴紐を結んでくれる。
僕はこの瞬間が大の苦手だ。
靴紐を結んでもらう事にすごく恐縮する。
なぜか「シンデレラ気分」になり、心がざわざわするのである。
そんなざわざわな気持ちで、靴紐を結んでくれている店員さんを上から見つめていた。
するとある事に気がついた。
僕のネクタイが、店員さんの頭上でブラブラしている。
「かなりのギリギリや!」
「めっちゃスレスレやのに全然気付かへんのか!」
「すごい集中力や!」
僕は故意にネクタイを店員さんの頭上スレスレで、ブラブラさせてみた。
「おーっ!スパイダーネクタイ!」
「蜘蛛の巣を操ってるみたいや!」
「テンションが上がってきた!」
あまりにも嬉しくて、次女と家内にアイコンタクトを送った。
「すごいやろ!スレスレや!」
そして、家内の口が開いた。
「もう止めときや!」
それでも、僕は攻撃の手を緩める事は無かった。
僕のスパイダーネクタイ攻撃に耐えた店員さんのおかげで、僕はジャストサイズの靴とめぐり合う事が出来た。
そして、満足気な僕に、次女のキレのあるひとことが浴びせらた。
「ほんまにそんなんばっかりしてるよな。なんやねん!」
その言葉を聞いて、次女にもスパイダーネクタイ攻撃をしようと思ったが、結局は黙秘権で対抗したのであった。