【 12 】
12月 24日 17:45
益田の大柄な体躯が消えると、幾分部屋が広く感じられた。
居間は子供が二人いるとは思えないほど、きれいに保たれていた。
しかし、2人が失跡した今となっては、その空間が寂寥感を助長する。
「裕美子さん、私と沢村さんはまだそれ程長い付き合いではないが、彼の誠実で裏表のない人柄は実に好ましかった。家出などではまずない、と私は信じている。捜査は警察が全力を挙げて行います。お任せ下さい」
裕美子はハンカチで目を覆いながら、無言で頷いた。
「・・・ところで、警察に通報されたのは今日でしたね。何時頃でしょうか?」
「・・・今朝の9時頃だと思います」
「昨日通報しようとは思わなかったのですか?」
「ええ、何度も思いました・・・でも娘だけならまだしも、主人も一緒でしたので。一緒に海の方を探して頂いた相原さんも『沢村さんはきっと大丈夫。とりあえず信じて待ってみよう』と・・・・・」
出麹は裕美子の声色を注視しながら、幾つかのことを同時に考えていた。
「相原さんと海岸を探しに行ったとおっしゃいましたよね?何か気付いたことや不審なものを見ませんでしたか?」
「そうですね・・・・・・普段とあまり・・・・・変わらなかったと思います。私は暗くなるとあまり海の方へは行かないのですけれど、主人はよくジョギングに出かけておりました。『今日もカップルが車の中でイチャイチャしていたよ』なんてよく言っていましたから・・・・・昨夜も車が3、4台停まっているだけでした。失礼とは思いながらも、相原さんが懐中電灯で車内を照らして下さいましたので・・・カップルばかりでしたね・・・それ以外に特に変わった様子は無かった気がします・・・」
「・・・そうですか・・・分かりました。 ちょっと家の周辺を見てまた戻ってきます。 裕美子さん、不安なお気持ちは重々に承知しておりますが、少し心を落ち着けて下さい」
出麹は他の刑事が裕美子から聴取したメモを確認し、裏口から家を出ようとした。
その瞬間、玄関から何かが倒れ込むような衝突音と、激しい犬の鳴き声が聞こえた。
一同、急いで玄関に出ると、床に茶色い雑種犬を連れた少年が泥まみれで倒れこんでいた。
「雄介!」
裕美子が顔面蒼白で駆け寄り、慌てて雄介を抱き起こした。
「あなた、2階にいたんじゃなかったの!?!?」
裕美子が頬をたたきながら、雄介の体を抱き寄せた。
雄介は意識をかろうじて保っているようであった。
手袋がボロボロに破れ、出血している。
赤茶色に汚れた顔から、母親似の強い眼光を放つ瞳が浮かび上がり、充血していた。
雄介は早朝から母や相原と共に、近所の捜索に参加していたが、警察通報と共に家での待機を促されていたはずであった。
出麹は雄介を中に運びこみ、手当てを命じると共に、捜査員をどやしつけた。
雄介が無事に帰ってきたからよかったものの、万が一二重遭難という事態を招いていれば、警察の大失態である。
居間に運ばれた雄介を、裕美子はひたすら抱きしめていた。
しばらく放心していた雄介であったが、出麹の存在に気付くと顔を上げた。
「・・・・・・・」
「覚えていてくれたか」
出麹は冷え切った雄介の足を、ゆっくりと湯に付けてやった。
「雄介君・・・約束しよう。お父さんと美穂ちゃんは必ず見つかる・・・。だから明日からはあまり外に出てはいけない。君の使命はお母さんをこの家で守ってあげることだ」
出麹は横になった雄介に顔を近づけ、両手で肌に触れた。
頬は氷のように冷え切っていた。
雄介の瞳からは、困惑の色が読み取れた。
出麹は少しの間雄介に触れていたが、雄介の口からはそれ以上何も言葉は出てこなかった・・・
・・・・・コノショウネンモ、マタ・・・・・