【 17 】
12月 24日 23:52
「主任、そろそろ張り込みの交代を要請しましょうか・・・・・」
益田がそう問いかけた時、時刻はもう12時前・・・・・1980年のクリスマスイブが終わろうとしていた。
「そうだな・・・・・少しここで待っていてくれ」
出麹は益田を一瞥すると、コートのファスナーをきっちりと上まで引き上げ、車を出た。
背中を丸めて畑山のアパートを横切り、数十歩いったタバコ屋前の公衆電話で歩みを止めた。
出麹は寒さに震える指先で、メモを見ることなくダイヤルを回した。
------------5回目のコール------------
「はい、畑山です」
「・・・・・夜分にすみません・・・・・出麹です」
「・・・・・おお、出麹君、どうした?クリスマスのお祝いコールか?」
陽気な声だった。
「昨日の試合はナイスバッティングでした」
「なあに、あんなもんまだまださ。だいぶバッティングのコツは掴んできたからな、来年はもっとがんがんいくよ。しかしあれだな、沢村さんのスイング指導は効果満点だな。君こそ最近はみちがえるようによくなったものなあ」
「・・・・・畑山さん・・・・・実はその沢村さんが昨日の夕方から行方不明らしいのです」
突然の提示
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
出麹は娘の美穂が一緒だったことを除いて、簡単に現状を説明した。
「・・・・・そうか・・・・・不思議な話だ・・・・・警察にはもう届けたのか?」
「はい、奥さんが今朝届けたそうです」
「しかし・・・・・家出は有り得ないことだし、かといって沢村さんほどの体格の大きな人が失踪だなんて・・・・・」
「無事に見つかるといいですがね・・・・・」
「そうだな・・・・・しかし何か事件に巻き込まれたのだろうか?私も仕事が無ければ一緒に探したいのだが・・・・・」
出麹はまぶたを閉じて神経を集中していた。
暗闇で響く畑山の声色・トーン・返答の中身は出麹の予想を大きく外れるものではなかった。
つまり『シロ』なのか・・・・・
「畑山さん・・・・・今は警察に任せるしかないでしょうね」
「そうだな・・・・・しかしこんな静かな町で一体・・・・・」
「また連絡します」
「あ、ああ分かった・・・・・ところで出麹君、こんな時になんだが約束していた明日の夜はどうする?」
閉じたまぶたがピクリと動いた。
出麹と畑山は日曜日の試合後、25日の夜に二人で忘年会でも、という約束を交わしていた。
「・・・・・ええ・・・・・色々と話もしたいし、会いましょうよ。『とたに』に19時でいいですか?」
『とたに』は出麹と畑山がたまに顔を出す、古町通りの飲み屋であった。
「分かった。では明日な」
「ええ、夜分のお電話すみませんでした」
出麹は固定・硬直していた左腕をゆっくりと動かし、受話器を置いた。
ふっと一息ついて目を開け・・・・・視界がぼやける・・・・・
ゆらゆらと何かが舞っていた・・・・・
----------------雪-------------------
出麹は空を見上げた。
黒のキャンバスから純白の雫が落ちてくる。
放射状に舞い落ちる雪を、しばらく茫然と眺めていた。
粒の大きな雪だった。
出麹は一粒の雪を手の甲で受け止めた後、アパートの裏手を回ってゆっくりと車に戻った。
この日、雪は一晩中ふりやむことはなかった。
沢村家では電話の逆探知チームが三交代で待機し、近隣には覆面パトカーが配置されていた。
・・・・・ニイガタ、コトシハジメテノ、ユキ・・・・・