【 26 】

 

 

 

 

 

少年が抱きしめていたもの。

 


 

土中から四分の三ほど突き出た、成人男性の頭部。

  

  

  

明らかに真の人間のそれ、と分かりました。 

   

死後どれぐらいの時間が経っているのか・・・・・・・

 

鬱血した顔面。

  

頬にへばりついたどす黒い血液の凝固。

  

うっすらと開いた目。 

朱を含んだ薄闇の中で、濁った白目だけが浮かび上がる。

  

 

頭部から少し距離を置いて、右手とおぼしき一部分も表に出ていた。

 

少年は・・・・・茫然とその右手を眺めているように見えた。

  


少年は身動きひとつしませんでした・・・・・・・真っ青な肌、一点を見つめて静止した眼球。

  

埋められていた死体と同様に、まばたきもない。

 

  

 

全てが凍りついていました。 

 

痙攣なのか・・・・・私は両の肩と足に微小な震えを感じた。

 

強烈な寒気。

 

あの時、この岩窟は氷点下に達していたと思います。

 

 

 

圧倒的な浮遊感。

 

 


私はどれぐらいの間、茫然の彼方を彷徨っていたのか・・・・・・ふと気付いた時には、先程までけたたましく吠えていた犬が、少年のすぐ傍に近寄ってきていました。

 

半ば我にかえった私は・・・・・・「いち早くここを離れなければ」・・・・・そう思いました。

 

そうしなければ、私自身の何かが、吹っ飛んでしまいそうでしたから・・・・・・・・。

 

その衝動がピークに達しようとした時・・・・・

 

・・・・・少年の横顔が・・・・・もう一度目に入った。 

   

・・・・・少年は・・・・・少年の瞳は・・・・・

 

全く精気の欠片も宿していませんでした・・・・・・・

 

消えいるようなその少年の瞳に、私はまた意識が遠くなっていきました。

  

気がつくと私は少年の肩に触れ手を置いていました。


そして・・・・・動いた・・・・・

                                      

光彩を失った目の玉が・・・・・

 

 

・・・・・ゆっくりと・・・・・

 

 

・・・・・私を睥睨した・・・・・

・・・・・焦点が定まりそうで、定まらない・・・・・・

  

 

・・・・・あまりに虚ろで寂しげなその瞳・・・・・ 

 

 

  

 


この空間に辿り着いてから、どれぐらいの時間が経っていたのか、分かりません・・・・・・・

   

ただ・・・・・静かでした・・・・・

   

波音や洞内で反響していた風の音も、いつのまにか私の耳には届かなくなっていた。

 

私の聴覚は・・・・・・・・・・ただ、ひたすらに・・・・・・・・・・

 

 

  

この両腕で抱き締めた少年の鼓動で満ちていました。

  

  

 

 

 

・・・・・シンプルデヨクセイサレタ、ビート・・・・・