【 30 】

 
 
 

1981年(昭和56年) 1月 21日  16:05

 
 

 

 

  

雪がぱらついていた。



出麹はひとり海岸沿いの小道を車で走っていた。 

雪道の運転にも慣れてきていた頃だ。

 


ラジオから69歳と高齢のレーガン大統領就任の報が伝えられる。

夕暮れに差し掛かる新潟の海辺はひと気がなく霧がたち込め、遠くで舞う雪が霞んでみえた。


 

「さすがに誰もいないか・・・・・」

 


『みりかグラウンド』が前方に見えてきた。 

出麹が所属する草野球チーム『潮風シャークス』が頻繁に使用していた小さな野球グラウンドである。

時計を確認すると既に16時を過ぎていた。

 
 

「・・・・・またか・・・・・」

 
 

気が付けば3時間も無休で新潟市から関屋浜をぐるぐると回り続けていた。

 
  

 

あの事件以来・・・・・気が付けばこの周辺を彷徨っている自分がいる。





このグラウンド、いや野球チームのおかげで反政府主義団体の畑山に接近することが出来たが・・・・・・・・

出麹のまぶたに沢村泰介と美穂の姿が映った。

  

 

沢村失踪の一報を受けた時に感じた違和感。

 

 

・・・・・・これまでに対峙してきた事件とはまるで違う何か・・・・・

 

 

親子の特異な失踪の仕方なのか、大捜査網に反する手掛かりの少なさに起因するのか・・・・・・

  

 

またこのキャリア警部にとって、これほど身近で起きた事件は初めてであった。

  

 

バックミラーで後方を確認すると、出麹はグラウンドの脇道で車をとめた。

大きく伸びをした後ラジオの音量を下げ、シートを少し後ろに傾けた。

 

   

 

外気を車内に入れようと窓を少し開けた時、グラウンドに人影が見えた。

  

 

 



「・・・・・雄介君か!?・・・・・・」

 

 

 

 

少年は黙々とバックネットにボールを投げ、撥ね返ってきたボールをキャッチしている。

  


出麹は急ぎ車を降りると、入り口に回り込みグラウンドへ足を踏み入れた。 

足元は雪どけの水分を含み、若干ぬかるんでいた。

 



少年はこちらに背を向け、グラウンドへの侵入者に気付くことなく再びボールを放った。

 


 


 

 

「やはり・・・・・雄介君か・・・・・」 

   

  


 

 


 

 

  
 

・・・・・アイテノイナイ、キャッチボール・・・・・