【 25 】

 

 

 

 

子供・・・・・

 

なんとそこには子供が突っ伏していていました。

 

微かに届く夕陽の中、倒れた彫刻のように前のめりに。

 

最初は男児か女児か、分かりませんでした。

  

鳴き声の主である犬は岩壁の陰に隠れて見えなかったが、私に気づいたのか二歩三歩と奥から姿を現しました。

  

私は混乱した。

 

何故このような場所に犬と子供がいるのか・・・・・

海岸を散歩していて、迷い込んでしまったのか。

 

いや、確かにそれも不思議だったが、最大の混乱の原因は・・・・・今思うとあの時の子供の異様な様子でした。

 

寒気が張り詰めた、冷蔵庫のようなこの小さな空間で、腹ばいになったまま一向に動かない。

  

うつ伏せの自らの顔の横で、何かを抱えている。

 

呼吸はしているようだが、手足をぴくりとも動かさず・・・・・ 

 

寝ているわけでも、気絶をしているようでもない。

 

 

 

・・・・・この子は一体何をしている・・・・・

  

 

 

犬は私を警戒するでもなく、一度砂を後ろに蹴り上げると、再び子供に向かって吠えはじめた。

 

鳴き声は一定のリズムで洞内で反響していた。

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

私は多少の警戒を伴いつつ、その子供に問いかけました。

  

反応はなかった。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

  

 

私は先よりも大きな声を発してから、ゆっくりと岩窟の中央に近づいた。

 

どうやら男の子のようだ。

  

白いジャンパーがドロドロに汚れている。  

 

私は更に少年に近付き、より一層大きな声で叫んだ。

  

  

「おい!! だいじょ・・・・・・」 

 

 

呼び掛けながら、少年の背中に触ろうとしたその時・・・・・・・

 

 

  

私は息が止まりました。

 

 

喉を握りつぶされたかのように、声が途切れた。

  

声にならない声が漏れ、我が眼前の光景を疑った。

 

 

 

少年は・・・・・・・・・

 

 

少年がうつ伏せになって抱えていたのは・・・・・・・

 

 

 

土中から突き出した人間の頭部だった。

 

 


それは明らかに、人形などではなかった・・・・・

 

 


 

岩窟に差し込む朱色の夕陽が、いつのまにか明度を落としていた。

   

   

   

 

  

・・・・・ユキフルカイガンデ、カサナリアウオヤコ・・・・・