【 22 】

 

  

 


12月 25日     19:50

 

 

「お客様、お電話が入っておりますが・・・・・」

 

まったく意外な方向から声が飛んできた。

先程の仲居だった。

出麹は動転した。

 

「連れ?誰だ?」

 

その言葉を口にした瞬間、自分がここにいることを知るのは益田のみということに気付く。

出麹は平静を装い、畑山に断りを入れると席を立った。

仲居が出麹を店の入り口の方へと導き、恐縮しながら出麹に囁いた。

「実は・・・・・そう言ってくれ、と頼まれましたので申し上げましたが、実は電話ではなく、今、店の外に背の高い男の方がいらしております・・・・・」

 

出麹はこの状況で自分を呼び出すことが、畑山の手前、どれだけまずいことか-----益田が判断できないはずがない-----つまり、「切羽詰った何か」が起きたと直感した。

 

出麹は混雑した店内を足早に歩き、店の外へ出た。

依然として雪降る街を見回しても誰もいない。

出麹が戸を閉め再度左右を確認すると、路地から益田が現れた。

呼吸が荒く、吐き出す白い息が雪と同化していく。
 

  

「取り込み中、申し訳ありません」

「かまわん、うまくごまかすさ。それよりそっちの路地に入ろう」

 

出麹は益田の背中を押し、店の戸口から離れた。

 

「何があった?」

 

出麹は胸騒ぎを覚えながら、煙草を口に咥えた。

 

「火あるか?」

  

益田はライターを点しながら、出麹の目を見据えた。

暖色のゆらめきが出麹の瞳に映り、煙草の先っちょが小さな火口となって熱を吸収する。

  

二人の合間に無数の雪が迷い込み、湾曲した落下ラインを描き地面まで辿り着くことなく消失していく。

  

  

益田はやがて、押し殺すような低音を吐き出した。

  

  

  

「・・・・・沢村が・・・・・見つかりました」

 

  

  

出麹の瞳孔が開く。

吐き出した煙が、視界で蛇のように渦巻く。

  

「生きていたのか!?」

  

益田の顔が小さく左右に振れる。

出麹の顔面が天を仰ぐ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・娘は?」

 

「まだ見つかっていません」

 

「・・・・・沢村の発見場所は?」

 

「関屋浜沿いの岩窟、という情報が入っています。」

 

「・・・・・・・関屋浜!?・・・・・・・・・分かった・・・・・・・・・車で待っていてくれ。すぐに戻る」

 

踵を返す出麹の右肩に、益田の手が掛かった。

 

「出麹さん、もうひとつ・・・・・」

 

「何だ?」

 

 

  

「沢村泰介の遺体第一発見者は、息子の雄介君です」

   

   

  

  

・・・・・ダイイチハッケンシャハ、ムスコノサワムラユウスケ・・・・・