【 20 】
12月 25日 16:05
佐山と出麹がアトリエに入ってから10分近くが経っていた。
益田が待機している事務所には物音ひとつ聞こえてこない。
二人がいない間、益田は事務所を見回していたが「特記する程の何か」は出てこなかった。
窓の外ではまた少し勢いを増した雪が舞い乱れ、向かいの民家の屋根が白く染まっていた。
木の床が軋む音が聞こえ、出麹がアトリエから出てきた。
「行こうか」
出麹は益田に一声掛けると、ぶっきらぼうに扉を押して外へと出ていった。
益田はしばしの間、佐山が出てくるかと待っていたが、その気配も感じられないので、、入り口の前からアトリエに向かってひと声かけ、出麹の後を追った。
階段を降りて外に出ると、車にもうっすらと雪が乗っかっていた。
益田は出麹より先に運転席に乗り込み、助手席のロックを外した。
出麹はしばらく茫然と立ち尽くし雑居ビルを眺めていたが、やがてコートの襟を立てながら車に乗り込んできた。
益田がキーを捻ると、朝よりは早くエンジンが掛かった。
「中で何をしていたんですか?」
「・・・・・二人で絵画鑑賞さ・・・・・」
ワイパーが視界を扇型に切り取っていく。
「絵画鑑賞?・・・何の絵ですか?」
「・・・・・・・・・・内緒だ」
「ひどいですね・・・・・ずっと待っていたのに・・・・・」
サイドガラスにへばりついた水滴を手で拭うと、切り取られた窓から一夜にして白みを帯びた町の風景が流れていた。
出麹は手についた水滴を握り擦った。
「益田、すまんがこのまま古町まで送ってくれないか?」
「古町?・・・・・何か用事が?」
「ああ・・・・・夜、畑山と会うよ」
「あの畑山ですか?」
「そうだ」
「・・・・・」
市民会館の裏を折れ、益田は車体を古町方向へと向けた。
液状化した雪が路面でタイヤに弾かれる。
益田はハンドルを繰りながら時折助手席に目をやったが、出麹は前を見据えたまま何も言葉を発しなかった。
益田は何かを諦めたのか小さなため息をついた後、ラジオのスイッチに手を伸ばした。
対向車のヘッドライトが車内に満ちる中、スピーカーからはジョンレノンの歌声が、途切れ途切れに流れてきた。
・・・・・ユメノ、ユメ・・・・・