【 18 】

 
 
 

12月 25日     15:05
 

 

静かに降り続ける雪の中、新潟中央署による本格的な捜索活動が展開された。

娘・美穂の絵画教室-沢村家-海岸線-この三つの点を結んだ三角形が、取り急ぎの捜査の中心となった。


新潟中央署の署長、権田幸雄は機動隊にも出動を要請した。


中央署は当初、沢村と娘の失踪を『家出人捜索願い』として、生活保安課が受理していた。

しかしながら25日早朝、権田に『家出ではない可能性が濃厚』との連絡が入り、緊急に大規模な捜査態勢が敷かれたのであった。


権田に電話を入れたのは出麹であった。


沢村家と海岸の間に横たわる防風林・球戯場周辺・海岸線・工場跡地などの徹底的な捜索と同時に、水面下での聞き込みも行われた。

権田は一週間経過後、もしも捜査に進展が無ければ、公開捜査に踏み切るつもりであった。

 

出麹は午前2時まで畑山のアパートを張った後、署に戻った。

その後官舎で仮眠を取り、権田の許可を得てから小規模な緊急捜査会議を開いた。

自らが知る沢村に関する情報、並びに出麹・沢村双方と接点のあった畑山と接触していた事実などを公開した。

「要注意左翼団体構成員・畑山による事件への関与の可能性は低い」と述べながらも、団体の水面下の動向に対するマーク強化を訴え、管内各派出所への捜査協力を要請するよう命じた。

   

午後15時、出麹は益田を連れ、美穂が失踪直前までいた絵画教室へと向かった。

町にはすでに、雪がうっすらと白い層を成していた。

路面には車のタイヤが残した、並行な二本の黒い線が伸びている。

露出したアスファルトに小粒になった雪が吸収されていく。

赤信号でのブレーキに余分な距離を取る。

 

「チェーンの取り付けも慣れたものだな益田」

「ええ、ここで3回も年を越していたら、いやでも慣れますよ」


広場では冬休みに入った子供達が雪と戯れている。

積もった雪を掻き集めているようだ。

 

信号が青へ。

 

益田がアクセルを踏むと、再びタイヤが雪を撥ね始めた。

駅に向かう曲がり角で、益田が窮屈そうにハンドルをきった。


「早いな」

「・・・・・何がですか?」

「いや、今年ももうあと僅かなんだな、と思ってね」


フロントガラスで液状化する雪を、ワイパーがせわしなく端へと運ぶ。


「・・・・・はあ、まあそうですね・・・・・今年は何か色々ありましたね」

「・・・・・例えば?」

「ジョンが撃たれましたよね」


この年(1980年)12月8日、元ビートルズのジョン・レノンが、ニューヨーク市内で熱狂的なファンにピストルで射殺された。


「ファンだったのか?」

「ええ、そりゃもう・・・・・」

「・・・・・他には?」

「長嶋が監督を辞めちまいましたし、王も引退しましたよ。なんか寂しくなりますね。そうだ、野村まで引退しましたね・・・・・」


絵画教室が入った雑居ビルが視界に入った。

昼に見るこのビルは、昨夜よりも古びて映った。

 

「益田は野球、好きなのか?」

「ええ、実は私、高校球児でしたからね。出麹さんは?」

「・・・・・俺は野球には興味がない」

「え?だって草野球やってるくせに」

「・・・・・あれは仕事だ・・・・・」


出麹は今年こなした野球の数試合を、ふと頭に蘇らせた。

『潮風シャークス』に入団するまでは、本当に野球には関心がなかった。

入団前夜、任務の為とはいえ野球をすることに対して、気が進まなかった。

しかし・・・・・いざ、みようみまねで野球を始めてみると、意外にも気持ちは変化していった。

 

日曜日の青空の下で、沢村達仲間と無邪気に白球を追いかけて過ごすあの空間は、出麹にとって決して不快なものではなかった・・・・・

 
 
 

・・・・・コノヨニセイヲウケ、キャッチボールナンテ、シタコトハナカッタナ・・・・・