【 10 】
12月 24日 17:20
出麹は家の状況を観察しながら、裕美子の方へ顔を向けた。
裕美子が出麹の存在に気付く。
出麹は裕美子の顔から視線を外すことなく、軽く会釈をした。
裕美子は目をまん丸にして驚いているようであった。
「・・・・・出麹さん?」
「先週はどうもご馳走様でした。驚かせてすみませんね」
「いえそんな・・・・・きょうは・・・・・? そちらの刑事さんはお知り合いで?」
「裕美子さん・・・・・実は私『警察』の仕事をしておりまして・・・・・」
「・・・・・え?この前は・・・・・」
「申し訳ございません。とある事情があり、身分を偽っておりました」
出麹は裕美子の困惑した表情を見据えながら、深々と頭を下げた。
益田を含めた数人の刑事も頭を下げた。
裕美子の顔に、より一層の驚愕と不安の色が広がった。
「出麹さんが警察・・・・・まさか主人と何か関わりが?」
出麹は裕美子に歩み寄り、大きく首を横に振った。
「裕美子さん、沢村さんは何もしていないし、私が身分を偽っていたことと、彼の行方が分からないことに全く関連はありません。草野球チームでも彼は新参者の私に本当によくしてくれた。私は沢村さんという人間に惚れていたぐらいなのだから・・・・・」
出麹は諭すように、ゆっくりと裕美子に言葉を伝えた。
しばらく沈黙が続いた。
部屋中に重苦しい空気が立ち込める。
隣の家からラジオとおぼしき音がかすかに流れてきた。
裕美子は美しいラインを描く額と眉間に並行な2本の溝を走らせ、食い入るように出麹の目を覗き込んできた。
出麹はその視線を外すことなく、再びゆっくりと口を動かし始める。
「裕美子さん、不安なお気持ちは痛いほどよく分かります。私も沢村さんが心配でならない・・・・・でもきっと大丈夫。あの人は強い人だ。そして貴方も・・・・・・。だから貴方と我々が今やるべきこと、この作業に落ち着いて取り掛かりましょう」
一人の捜査員が台所へ入っていった。
その捜査員を目で追い、裕美子は一瞬息をついた。
ずっと胸に添えていた手が、静かに腰の横に下りていく。
出麹はそのシャープな指先の形状に目を奪われた。
「ゆっくりとでいいので、失踪する前の御主人の様子を私に話して頂けますか?」
裕美子は少し落ち着きを取り戻したのか、一度視線を床に落とした後、再び出麹に顔を向け、口を開いた。
微かに震えているその唇の動きに、出麹の意識が絡め取られた。
・・・・・ハンリョトムスメガシッソウシタオンナ・・・・・