【 9 】
12月 24日 17:15
出麹は沢村家から少し距離を取ってタクシーを降りた。
誘拐の線がある以上、慎重を期する必要がある。
辺り一帯は夕食時であるにも関わらず、静かであった。
歩きながら、ここ最近の沢村の言動・表情を脳に蘇らせる。
その一つ、一つを鮮明にフラッシュバックさせ、分析する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異常ナシ
沢村家を視界に捉えた頃、太陽は完全に海に沈んだ。
窓から漏れる光が赤茶けた門扉を照らしている。
先週となんら変わりのないたたずまいでった。
出麹は注意深く周囲を見渡し、裏塀から沢村家に入った。
中には数人の捜査官の姿が見えた。
一人、長身の男が妻の裕美子と話をしているようだ。
出麹は裕美子の表情を凝視した。
恐らく一睡もしていないであろうに、毅然とした振る舞い。
さらに近寄り、瞳の色を窺う。
-焦り・不安・困惑・疑念・疲労-
裕美子と話をしていたのは、先程出麹に連絡を寄こした益田であった。
一人の捜査官が出麹の存在に気付いた。
出麹はひたすら裕美子の表情を窺っていた。
やがて益田の目も出麹を捉え、裕美子との話を打ち切り、こちらに歩み寄ってきた。
益田の体で裕美子が隠れた。
益田の表情から感じ取れるシグナルは「進展ナシ」であった。
長身を折り屈めて一礼した後、素早い耳打ち。
「まだ何者からも連絡はありません」
「目撃情報等は出てきたか?」
「全く」
「そうか・・・・・」
出麹の眉間が小さく収縮した。
・・・・・ナニモノカラモ、セッショクハナシ・・・・・