【 1 】




2002年 8月 13日



-神戸-

ラジオが震えていた・・・・・

漏れ聞こえる甲子園の試合が延長戦へ。

袖をまくる。

もう19時を過ぎていた。


兵庫県・神戸市・三宮の街。

山と海に挟まれ、異国人が共存する街。

夕日が差し込み、扇ぐうちわがキラキラと光った。

遥かを仰げば、六甲の山々も紅潮している。


クラクションと共にタクシーがすぐ脇を抜けていった。

ケツまでスリットの入った女が嬌声をあげている。

中山手通りを抜け、ハンター坂を上り始める。

逆に手をつないで坂を下ってくるカップル。

坂を50メートル程進むと、街の喧騒が遠のいた。


小田島浩志は少し様変わりした三宮・北野地域に戸惑っていた。

ハンター坂を上りきり、異人館通りを右折する。

さらにしばらく歩き、左折する。

そこから数十メートル進んで路地に入ると・・・・・長方形の視界の先に懐かしい暖色の灯り。

小田島は路地両翼の建物に挟まれた細長い空を見上げ、薄暗い空間に雲を確認した。

夏の夕風が羊のような雲を追っている・・・・・いつのまにか、うだるような暑さは消えていた。


小田島は路地を突き進み、灯りのふもとを目指した。

途中、民家から耳慣れない言葉が漏れ聞こえてきた。

眼鏡を少しずらし、汗をぬぐう。

相変わらず看板は出していないようだ・・・・・

小田島はようやく目当ての灯りのふもとに辿りついた。


BAR『北野Rail』-神戸には隠れ家を謳うBARは多い。しかしここはことさら見つけにくい。

重厚な蒼い木扉。昔より年を取ったようだ。

小田島は少し息を整え、姿勢を正した。

多少の緊張を伴い、年老いた扉をゆっくりと押してやると・・・・・・さびついた留め金のきしむ音が心地よく響いた。


一瞬の静寂とバニラのような甘い匂い・・・・・パイプか・・・・・

暖色の間接照明が滲む店内は、薄暗い。

小田島が一歩フロアを踏みしめると、カウンターの奥からヌッと人影が現れた。


「・・・・・おやおや・・・・・懐かしい顔ヤナ」

しわがれた声が、小田島を絡め取る。

覗き込むような大きな目だけが、薄暗闇に浮かんだ。濁った白目が際立って見える。

小田島は歩を進めた。

「ご無沙汰しております、陳さん・・・・・」

深々と礼をした。

「5年ブリくらいか、オダジマよ・・・・・・」




・・・・・・・・・・アレカラ、モウゴネン・・・・・・・・・・