がん検診の有効性が死亡率減少効果で評価される以上、ものすごく高齢の人にがん検診を実施しても死亡率減少効果は見込めず(別の原因で死亡するから)、過剰検診(overscreening)につながります。米国Choosing Wiselyでは検診を取り上げている学会がいくつかあり、たとえばAMDASGIMは余命10年未満の人へのがん検診を推奨しないと表明しています。

 

一方、日本の市町村が実施するがん検診の対象者には「○歳以上」(下限)はあっても「○歳以下」(上限)はありません。厚労省「がん検診のあり方に関する検討会」の中間整理(2020年3月)では「諸外国では、がん検診を推奨する年齢を明確化し、高い受診状況等につなげている例がある」としつつも「最新の科学的根拠や、がんの罹患率・死亡率の変化等に基づく検討会での議論を踏まえて、必要な見直しを行うべき」と慎重な書きぶりにとどまっています。2025年問題(日経ビジネス2022年7月29日)もあり、一律に年齢で区切ることは科学的(いわゆるエビデンス)にも社会的(高齢者差別と反発する人が出てきそう)にもハードルが高いからだと思います。

 

米国の医師を対象に、がん検診を余命で区切ることに対する意識を調べた結果が、JAMA Internal Medicine誌に10月10日に発表されていました(JAMA Intern Med. published Oct 10, 2022. doi:10.1001/jamainternmed.2022.4316)。それによると、回答者(回答割合52.4%)の75.3%(596/991)が、余命10年以下はがん検診を中止するリーズナブルな基準になると考えており(逆に言えば、4分の1はそう考えていなかった)、64.4%(509/790)が過剰検診を減らすことは良い患者ケアになると考えていました。一方で、過剰検診が高齢者の重大な問題と認識しているのは38.8%(300/774)にとどまっていました。

 

過剰検診は過剰診断・過剰治療につながりますが、やめるタイミングの判断は米国でもなかなか難しい問題であることが読み取れます。