昨日の会見(首相官邸2021年7月31日)で菅首相は、7月19日に特例承認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ、商品名ロナプリーブ、厚労省2021年7月19日、中外2021年7月19日、くすり×リテラシー2020年11月24日、2021年6月30日)について、「これまで軽症者や中等症者には効果的な治療薬がありませんでしたが、こうした方の重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬が今月19日に承認されました。」と絶賛していました。“画期的”と称される新薬はとりあえず疑ってかかることにしている(笑)ので、「重症化リスクを7割減らす」の根拠を確認してみました。
菅首相が引用していたのは、添付文書にも載っている海外第Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ相試験(REGN-COV2067試験、NCT04425629)です。中外のリリース(中外2021年4月2日)によるとPICOは以下です。
P:入院をしていない高リスクのCOVID-19患者に対して
I:ロナプリーブ1200㎎を点滴すると(n=736)、または2400㎎を点滴すると(n=1355)
C:プラセボの点滴に比べて(n=748)、またはプラセボの点滴に比べて(n=1341)
O:入院または死亡が減るか?
(中外のリリースには2400㎎に対するプラセボ群がn=1314と出ていますが、n=1341の誤りです)
結果、入院または死亡イベントの発生は、1200㎎投与では、ロナプリーブ群7例(1.0%)プラセボ群24例(3.2%)でRRRは70%(p=0.0024)、2400㎎投与では、ロナプリーブ生群18例(1.3%)プラセボ群62例(4.6%)でRRRは71%(p<0.0001)でした。特例承認された用量は1200㎎(カシリビマブ600㎎+イムデビマブ600㎎)なので、添付文書には上記のうち1200㎎の結果が出ています。
NCT04425629の中間解析の結果は2020年12月にNEJMに発表済みです(NEJM 2021; 384: 238-51.)が、最終結果ではありません。最終結果はいずれもプレプリント段階で、フェーズⅠ/Ⅱ部分は6月12日(DOI: 10.1101/2021.06.09.21257915)、フェーズⅢ部分は5月21日(本日時点では6月6日に発表されたVer.2が最新版)(DOI: 10.1101/2021.05.19.21257469)にMedRxiv発表されていました。米国でEUAを取得しているからといって、査読前の論文で新薬を特例承認(特例承認とはいうものの、事実上は承認と同じような扱いになっている、これはこれで問題です)してしまっていいのかという矢吹先生の疑問(矢吹拓Twitter2021年7月30日)はもっともです。
また、主要アウトカムが「入院または死亡」となっているのですが、入院と死亡には大きな違いがあります。フェーズⅢ部分のプレプリントの補足資料のTableS6に、入院と死亡の内訳が出ていました。
REGEN-COV2400mg群 プラセボ群 REGEN-COV1200mg群 プラセボ群
症例数 1355 1341 736 748
入院 17(1.3%) 59(4.4%) 6(0.8%) 23(3.1%)
死亡 1(<0.1%) 3(0.2%) 1(0.1%) 1(0.1%)
計 18 62 7 24
日本で特例承認された1200㎎群では死亡(最もハードなアウトカム)は両群ともに1人ずつで同じであり、2400㎎群でも1人対3人で2人(0.1%ちょっと)の差しかなかったことが分かります。この差をもって「画期的」というのはいかにも大げさです。