新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する論文が次々と発表されています。昨日のZoom勉強会で、遅ればせながら、NEJMに3月18日(1か月前!)に発表された、ロピナビル・リトナビル配合剤(日本の商品名カレトラ)のCOVID-19患者に対する効果を検討した中国のランダム化比較試験(RCT)(DOI: 10.1056/NEJMoa2001282)を読みました。複数の人間で疑問を出し合いながら読むと、自分が気づかなかったところに気づいたりして勉強になります(丹下先生、竹内先生、いつもありがとうございます!)

 

PICOは以下です。

P:新型コロナウイルス検査陽性で、画像検査で肺炎が確認されており、SaO2(動脈血酸素飽和度)が94%以下またはPaO2/FiO2比が300mgHg以下の、18歳以上の男性および妊娠していない女性のCOVID-19患者に対して、

I:標準治療にロピナビル・リトナビルを加えると

C:標準治療のみに比べて

(標準治療:酸素の補給、非侵襲または侵襲的な換気、抗菌薬、昇圧剤、透析、ECMO)

O:臨床的改善(7段階ある尺度で2段階の改善、または生存して退院のどちらか早い方)までの期間が短くなるか?

D:オープンラベルRCT、ランダム化は呼吸支援の方法で層別化、コンピューターによる割り付けがなされ、隠蔽化もされていた、

(サンプルサイズは当初160人と計算されて被験者はすぐに集まったが、検出力が足りなかったので募集を続けた。別の薬(レムデシビル)が使えるようになった時点で募集をやめた)

 

ITT解析(ロ・リ群99人 標準治療群100人)

主要アウトカム:ロ・リ群16日 対 標準治療群16日

ハザード比 1.31(95%信頼区間 0.95-1.31、P=0.09)→統計学的有意差なし

・day28での死亡 ロ・リ群19人 対 標準治療群25人

・ICU入室期間 ロ・リ群6日 対 標準治療群11日  など

 

modifiedITT解析(薬を飲まなかった3人を除外、ロ・リ群96人 標準治療群100人)

主要アウトカム:ロ・リ群15日 対 標準治療群16日

ハザード比 1.39(95%信頼区間 1.00-1.91)→ぎりぎり有意差あり

・day28での死亡 ロ・リ群16人 対 標準治療群25人

・ICU入室期間 ロ・リ群8日 対 標準治療群11日 など

 

安全性(ロ・リ群95人、標準治療群99人)

有害事象 ロ・リ群46人 対 標準治療49人

重篤な有害事象:ロ・リ群19人 対 標準治療群32人

(標準治療群で多かったのは病状悪化によるARDSをカウントしているため)

 

 考察部分では、今回は重症者が多かった(死亡が44人=22.1%)ため、ロピナビル・リトナビルをより軽症者に使用した場合の有効性については別の研究が必要と書かれていました。

 

 こうした臨床研究の結果に基づいて治療方針を決めるというのならわかるのですが、観察研究(=症例集積)に基づく印象が先走りするのは問題だと思います。

 

 昨日開催された日本感染症学会の緊急シンポジウムについての報道(TBS2020年4月19日)では「(アビガンを)投与した患者は300人で、2週間後、症状の改善が見られたのは軽症と中等症の患者で9割、人工呼吸器を使用するなど重症の患者で6割だったということです」と、効果がアピールされていました。ただしさすがに「アビガンの効果については使わなかった患者との比較など、さらに検証が必要」と但し書きがされていましたが。

 

 別の報道(NHK2020年4月18日でも「土井教授は現在行われている治験などでさらに効果を確かめる必要があるという考えを示し」たとのことですが、だったらどうして最初から治験(比較試験)で検証しないのでしょうか。これまでにアビガンを投与された300人全員が治験に参加していたら、今頃は登録が終わっているのでは?