「ここが私の家です」
リンと名乗る髪の長い妖精は、そう言って中央にある土を固めて作られたイスを指差し、女王様に座るように言いました。
長い槍を背中に紐で結び、狭い通路を腹ばいになってここまでたどり着いた女王様はすっかりくたびれてしまい、
「私はここで大丈夫です」
と言って、イスにもたれかかるようにして地面に座ったままでいました。
穴蔵のような土の壁や天井にかこまれた部屋の中は窓もなく、女王様が一人入ってしまうと、部屋はそれだけでいっぱいになり、まるで冬眠するために穴にもぐった熊のような気持ちになりました。
天井や壁にはキラキラと輝く透明な水晶が埋め込まれ、妖精のわずかな光を反射して部屋の中は明るく、太陽のような温もりがありました。
「ここは最悪の魔女がこの島に訪れ、太陽の光に嫌われてしまうようになってから私たちが自分達で掘って作った家です」
リンは女王様の向かい側のあいた場所に腰を下ろすと、悲しげに言いました。
「なぜ最悪の魔女がいると光に嫌われてしまうのですか?」
女王様はぐったりしたまま聞きました。
「最悪の魔女は自分の姿を見るのがとても嫌いなのです。だから太陽の光に嫌われるように魔法をこの島にかけ、闇の中に隠れているのです」
「最悪の魔女を見たことはあるのですか?」
「私はありません。けれど、森の木々たちがそう教えてくれました。森の木々たちは光を吸いとられ、黒い闇の木として魔法で変えられてしまいました。光がなくても、闇を浴びることによって生きることができるのです。けれど、闇の木になってしまってから、私たちは話をすることもできなくなってしまいました」
そう言うと、リンは涙を一粒流しました。
その涙はリンの頬を流れ落ち、キラリと光って土の上に落ちて消えていきました。
女王様は、そんなリンを見て悲しくなり、袋から先程詰め込んでおいたラム酒と、クッキーを取り出しました。
袋の中にはあと一瓶のラム酒と三枚のクッキーしかありませんでした。
ラム酒は他の妖精が飲み、クッキーはどこかで落としてしまったようでした。
「悲しいときは甘いものを食べるといいですよ」
女王様はそっとリンにクッキーを一枚渡しました。
妖精は小さく、クッキーを持つと、顔が見えなくなるほどでしたが、リンは、
「ありがとう」
と言って、一口クッキーにかぶりつきました。
「とっても甘いわ。それに食べると心が落ち着くわ」
リンはにこっと笑うと、パクパクとクッキーを食べてしまいました。
「お腹いっぱい」
「それは良かったです。私もお腹が空いてしまいました。一緒にいただいてもいいかしら?」
女王様はリンが首をたてに振ると、二枚のクッキーをゆっくりと味わうようにして食べました。
女王様はそれでもまだまだお腹がすいていました。
お菓子の国にいた頃は、食べたいときに食べたいだけお菓子を食べていたので、こんなにお腹がすいてしまうことはありませんでした。
ラム酒を飲んでしまおうかとも考えましたが、これが最後の一瓶だと思うと、何かの時のためにと我慢することにしました。
「お腹が空いているの?」
リンは女王様がお腹を押さえているのを見て言いました。
「そうなのです。なにかよろしければ食べ物をいただけませんか?」
「わかったわ。ちょっと待ってて」
リンはそう言うと、部屋の外へと飛び出していきました。
そしてしばらくしてオレンジ色の棒に緑の葉っぱがついたものを持って現れました。
「これは水晶畑で私たちが作っている野菜よ。食べてみて」
女王様はリンの背丈ほどの野菜を受けとると、匂いをかいでみました。
お菓子の国には野菜というものがなかったのです。
野菜は鼻を近づけると土と草の臭いがしました。
思いきってかじってみると、果物のようだけど、甘くなく、何度も噛んでいると少しだけ甘いような気がしてきました。
緑色の葉っぱも食べてみると、苦くて吐き出してしまいました。
「ごめんなさい。葉っぱは苦くて食べられないわ」
女王様は申し訳なさそうに言いました。
「初めて食べるの?」
リンはそんな女王様を見てびっくりしたように言いました。
「私の国にはお菓子や果物のように甘いものしかないのです。この野菜というものも初めて食べました」
「野菜は太陽の光を私たちの体に届けてくれる大切な食べ物です。今は太陽がないので私たちが発している光をたくさんの水晶で増やして浴びせて育てているので、それほど栄養はありませんが、生きていけるだけの力は与えてくれます」
「確かに、食べると力が出てきます。お菓子では幸せな気持ちになることはできましたが、こうして力がわいてくるということはありませんでした。味はお菓子の方が美味しいですが、野菜とは素晴らしい力があるのですね」
女王様がそう言うと、リンは誇らしげにうなずき、
「そうよ。野菜は素晴らしい食べ物なの。太陽の光を浴びることが出来れば、もっともっと美味しくて力がどんどんわいてくる野菜が作れるようになるんだけど」
リンは話しているうちに、また暗い顔に戻ってしまいました。
「栄養が足りなくなって、仲間たちはどんどん話すことも考えることもうまくできなくなってきてしまっているの。だから、私は一日でも早く最悪の魔女を倒してこの島に光を取り戻したいの!」
リンは両手をぎゆっと握りしめました。
「そういうことだったのですね。分かりました。なんとしても一緒に最悪の魔女を倒しましょう!」
女王様も野菜のお陰かどんどん疲れが取れて元気が出てきました。
そんなに食べたわけではないのにお腹ももう空いていません。
「まずはどうやって最悪の魔女を倒すのか、作戦を立てましょう」
リンは女王様の目をしっかりと見て言いました。