お菓子工場では休むことなく毎日の食事や衣服、家具などを作っていました。
甘い香りが立ち込め、はしごに登らなければ届かないほどに大きな鍋やオーブン、泡立て器や冷蔵庫がいっぱいに置かれています。
まるで小人の国に迷い込んでしまったような気持ちになりながら、王女様はちょこまかと働く料理人の一人を掴まえると、
「急いでこの国で一番硬い飴で作った鎧と一番硬くてどんな高温でも溶けないチョコで作った槍。それと、綿菓子の船を作ってちょうだい」
と言いました。
申し付けられた料理人は、
「わ、わかりました」
と慌てて調理場へと飛んで行きました。
王女様は待っている間に、近くにあった布袋に入るだけのクッキーとラム酒を詰め込みました。
クッキーは日持ちがするし、何より王女様の大好物でした。
他の者に見つからないようにと冷蔵庫の陰に隠れて待っていると、先ほどの料理人が手に何かを持ってやってきました。
「こっちよ」
王女様が手招きすると、
「王女様、出来ました!」
と言って手にしていた鎧と槍を差し出しました。
「早かったのね、さすがお菓子の国の料理人ね」
王女様はそう言って目を丸くしました。
そして、料理人からまず最初に鎧を受け取りました。
鎧はピカピカと黄金に輝く飴で出来ていて、着ると甘い香りがしました。
鎧は少し王女様には大きすぎるようでした。
「これは私にはちょっと大きいんじゃないかしら?」
「これは王女様の熱によって徐々に体にぴったりとくっついてまいります。けれど、ご安心ください。外からの熱にはびくともしませんから」
料理人が得意げにそう言うと、王女様は満足気に頷きました。
「そうですか。それならば問題ありませんね。それでは、そちらの槍もこちらへ下さい」
王女様が手を伸ばすと、料理人はうやうやしく茶色い槍を差し出しました。
槍は王女様の背丈よりも高く、まるでおやつに出てくる棒付きチョコレートを大きくしたかのようでした。
王女様が槍を受け取り、体の横に立てると、光を受けて槍の先がきらりと光りました。
「この槍の刃先は、我が国にあるチョコレートマウンテンから削り出した岩を削って作られています。女王様も知っての通り、チョコレートマウンテンは我が国が出来てから一度も溶けたことがなく、その岩は何よりも固いのです。その岩を使って山から岩を削り出し、先をとがらせました。これがあればどんなものでもプリンのように簡単に突き刺すことができます」
料理人が誇らしげに言うと、王女様はにっこりと微笑みました。
「チョコレートマウンテンの岩ならば確かにどんなものよりも固いに違いありませんね。それで、船はどこかしら?」
王女様が工場の中を見渡しても、それらしきものは見当たりません。
「それならば、すでに海辺へとつないであります。どうぞこちらへ」
料理人がそう言って歩き出そうとしたその時です。
「見つけたぞ!王女様をお止めしろ!」
工場の入り口からバタバタと人がなだれ込み、王女様のもとにかけのってきました。
「大変、早く私を船のところまで連れていって」
王女様は料理人を急かすと、料理人はなにがなんだかわからないという顔をしながら、海辺へと走り出しました。
皆でっぷりと太っていたので、走っていても早歩きしているほどのスピードしかでませんでしたが、料理人と王女様はなんとか海辺へとたどり着きました。
「これが綿あめで作った船です。雲のように軽く、柔らかく、どんなに重いものを乗せても風がふけば空に浮かぶ雲と同じよえにすいすいと進むことができます」
料理人がそう言って、波にゆらめくピンク色の船の手綱を女王様へと手渡しました。
ピンク色の船は本当の雲のように形がいびつでした。
振り返るとすぐそこにお付きのものがせまってきています。
「ありがとう。それでは私はもう行きます」
女王様はあわててそう言うと、船を海へと押し、船の上へと飛び乗りました。
といっても、うまく飛ぶことができず、転がるようにして船へと乗り込みました。
「お待ちください、女王様!」
お付きのものが手を伸ばし、あと少しというところで女王様が乗った船はすいっと水の上を滑り始めました。
「王子をお願いします!必ず魔女を倒して帰ってきます!」
王女様は岸に向かって叫び、手を降りました。
風は少ししか吹いていないというのに、船はぐんぐんとスピードをあげ、あっという間に料理人の姿もお付きのものの姿も小さくなって消えてしまいました。