愚者たち | 島村寺子屋まなび塾&ハポス治療院  公式ブログ

島村寺子屋まなび塾&ハポス治療院  公式ブログ

国家資格の柔道整復師であり、心とからだのセラピスト歴28年のハポス田島があなたのつらい痛みを一緒に治して行きます。

あなたのその繰り返す痛みと辛さは???
自分自身に向き合う方法を、一緒に考えて行きましょう。

 真っ白な小さな部屋に白い服を着た女が一人座っている。

その部屋には扉も窓も無く、四方を壁で囲まれている。

女はそこから脱出するのは無理だと知っているかのように、静かにその部屋の中央に座っている。

部屋には女以外の気配はなく、机も椅子も何もない。
女は、ある朝目を覚ますとこの部屋にいた。

どうやってここに来たのかは覚えていない。

食べるものはなかったが、不思議と飢えることもなく、何もなくても生きていけた。

排泄することもなく、女は自分が小さい頃に遊んだ人形になってしまったかのような気分だった。

女は、この部屋に来てからしばらくの間、一人でいることに何ら疑問を抱かなかった。

しかし、時が流れていくにつれて一人でいる事に耐えられなくなってしまった。

そして、長い間誰かに会いたいと強く願い続けた。

 ある時、女がいつものように部屋に座っていた時、突然壁の一方がガラスの壁となり、その向こうに女がいるのとまったく違わない部屋と、そこにたたずむ男の姿が見えた。

男は一瞬何が起こったのか分からない、というようにガラスの壁越しにまじまじと女を見つめていた。

女は、突然の出来事に訳が分からず、部屋の中央に座ったまま動く事が出来なかった。
そのうちに二人はお互いの存在を確かめるかのようにガラスの壁の方へと近づき、ガラスの壁越しに見つめあった。

女はとうとう願いが叶ったのだ、と大いに喜んだ。

男も同じように女の出現を喜んでいるようで、にこにことしている。

しかし、ガラスの壁は厚く、相手の声も聞こえなければガラスを割って相手の所へ行く事も出来なかった。
それでも二人はしばらくすると、身振り、手振りと口の動きでなんとなくだが会話のようなものを交わすようになった。

女は突然現れたこの男のことが次第に好きになり、男の姿を見るだけでも幸せを感じるほどであった。

男の方も、女のことが一目で気に入り、初めはその姿を見るだけでも良いと思っていたが、次第にその声を聞いてみたい、側にいたい、と思うようになり、このガラスの壁がなくなって欲しいと密かに願うようになっていった。
 

その男の願いも突然に叶えられた。

二人がいつものようにガラス越しに話をしていると、急に目の前がはっきりしたかと思うと、ガラスがなくなっており、二人の間を遮るものは何もなくなった。

二人は喜んでお互いの手を取ると、お互いのことを話し始めた。

身振り、手振りなどではあまりにも曖昧だったため、始めからきちんと話した方が良いということになったからである。
話しを聞くと、どうやら男も気が付くとあの部屋にいて、誰かがいればいいのにと思っていると、女が現れたということらしい。

そして二人はお互いの気持ちを確かめ合い、毎日を幸せに暮らし始めた。

 しばらくの間、二人は相手のことを心の底から愛していて、嫌いになることなんてないと思っていた。

しかし、ずっと何も無い所で二人だけでいると、どうしても喧嘩になることがあった。

何度も喧嘩をするうちに、まず男の方が女と話をしないようになった。

話をすることがあっても、何かあるとすぐに女に冷たくあたるのだ。

女はそれでも男のことを想い続け、男と一緒にいたいと考えていた。

だが、男が頻繁に女に冷たくあたるようになり、好きだという想いすら薄れ、とうとうまたあのガラスの壁ができてしまえばいいのに、と願うようになった。

男の方も同じ気持ちのようで、まだ女が男のことを想っていた時にも、何かを一生懸命に願っているようだった。

 女が願い始めるとすぐに、二人は気がつかぬ間に別々の部屋にいた。

そして二人の間には再びあのガラスの壁ができていた。

二人はやっと一人きりになれたことを喜び、お互いにガラスの壁とは逆の方を向いたまま時を過ごした。

しかし、それも長くは続かず、すぐにガラスの壁の方へと近づくと、お互いを見つめるようになった。

そして二人は仲直りをし、また元のようにお互いを想い合った。

二人は、一緒にいられなくなってしまったことを悔やみ、自分を責め、もう一度あの人と一緒にいたいと願うようになった。


しかし、どれほどの時が経っても、その願いは聞き入られることはなかった。

二人は日に日に自分の犯した罪を悔やみ、女は泣き続け、男は顔に苦悩の色を浮かべ続け、女が見ていない所で自分を殴った。

二人はそれでもお互いをガラス越しにはげましあったが、待てども待てどもガラスの壁は消えてなくなる気配すらない。

とうとう二人はあまりの悲しみに伏せてしまい、寝て暮らすようになってしまった。

そしてある日、女は夢の中で、こんな声を聞いた。
「おまえは、もう3つとも願いを叶えてしまった。だからそれ以上願っても何かが起こることはない」

男も同じ時、夢の中で同じ声を聞いた。

二人は同時に飛び起きると、相手にこの事をなんとかして伝えた。

もう願いが叶うことはないと知ると、二人はより自分を責めた。

しかし、一つだけ二人には気に掛かることがあった。

それは、まだ願い事は二つしかしていない、ということだった。

二人は何度も思い出そうと努力してみたが、まったく思い出せなかった。
さらに月日は経ち、女はある覚悟を決めた。

一緒にいたくないなんて思った私が悪かったんだ。

もう二度とあの人と一緒にいられることはできないのなら、いっそのこと……と。

男は女がそんなことを考えているとも知らず、ただただ自分を責め続けた。

俺があの人に冷たくしなければ……と。
そして女は実行に移った。

あの声を聞いた夢からさめて気が付くと、服のポケットに入っていた小瓶の蓋を開け、その中の液体を飲み干した。

これで死ねると誰かに教えられていたかのように。

女は薄れていく意識の中で、一つ目の願いごとを思い出した。
あなたが本当の悪魔なら、私を一人になれる所に連れていって。もう誰とも関わりたくないの


 男は、女が手に持っていた何かを口にしてから、ぴくりとも動かなくなったのを見て、涙を流した。

男は今まで以上に自分を責め、とうとう女が持っていた小瓶と同じ物をポケットから取り出すと、一気に喉の奥へと流し込んだ。

男は、薄れていく意識の中であの悪魔と出会った事を思い出していた。
おまえが本当に悪魔だったら、俺の望みを叶えてくれ。俺の望みは・・・・・・