【第2章8話】

 

前回のあらすじ

ヴァイト達一行は王都へと向けて歩き始めた。

そのいつもと変わらぬ様子に違和感を感じたブレナンが想いをぶつけるが、熱い想いは胸の奥に押し殺していることを知る。

そんな時にふと見かけた魔石に引き寄せられるように近づくブレナン。

ふとブレナンの姿が消えたことに気がついたマーベラス。

迷子になったブレナンを探すためにヴァイトがブレナンの匂いをたどって行く。

 

 

 

 ゆらゆらと揺れている感覚・・・心地よい。ってあれ? 何をしていたんだっけ? 光り輝く・・・石! 魔石! ブレナンが目を覚ますと、何かに担がれて運ばれている所だった。

 

(え? あれ?)

 

 体を蔓でぐるぐる巻きにされていて身動きが取れない。思わずうわー! と叫んでジタバタともがいてみたが、その叫びが声として聞こえてくることはなかった。そして、ジタバタともがいても無駄だということがわかった。その自分を運んでいる何者か達はブレナンの身体に触れてはいないからだ。彼らの手とブレナンの身体の間には空間があり、目には見えない何かで持ち上げられている様だった。そして、何かを言おうとしてもそれは言葉として声になることはなく。自分の口の周りの空気の振動だけ止められているかの様だった。それが意味するものは・・・。

 

(死神!?)

 

死に物狂いでもがいてみたが、ただひどく疲れただけで全くの徒労に終わった。死神・・・にしては数が多いし、とても小柄だ。まあ、死神など見たこともないのだが、そのような禍々しい気配はこの小さな何者か達からは感じられなかった。自分の無力感から『はぁ』とため息をついてみたが、それも言葉として音になることはなかった。その小さな者たちからは、なんだかよくわからない言葉を発しては、時折『ケケケケ』という耳障りな笑い声だけが響いてきた。

 

ふと思い出したことがある。このセーラオの森にまつわる噂・・・。イタズラ好きな妖精が、森に迷い込んだ人々に数々のいたずらを仕掛けて楽しんでいるという。妖精・・・こいつらが? ブレナンが思い描く妖精は、カラフルなパステルカラーの服を着て背中に羽の生えた可愛らしい小人・・・という感じだが、どう見てもこいつらは薄汚いボロ布をまとった妖魔、という感じである。

 

(どうか妖精でありますように!)

 

 何もできずにただ運ばれているだけのブレナンには、もうそう願う事しかできなかった。

 

 

「どんどん森の奥に入って行ってるような気がするんだけど?」

 

 ヒューラが前方を歩くヴァイトに確かめるように声をかけた。

 

「しょうがねぇだろ。あいつの匂いがこっちからするんだから。」

 

 嗅ぎたくもない匂いを嗅いでるこっちの身にもなってみろ! とでも言わんがばかりにフン! とヴァイトが鼻を鳴らした。

 

「こんな森の奥に・・・どこに向かっているんでしょうね?」

 

 マーラがふと湧いた疑問を口にした。

 

「だから森の奥・・・。」

 

「いえ、そうではなくて・・・。」

 

 ネルセンの言葉を遮るようにマーラが不安を口にした。

 

「人さらいならば、森の奥ではなく、自分たちのアジトか売り買いをするため街へと向かうはず・・・この森の奥には一体何が?」

 

 マーベラスが木の枝を指揮棒のように振りながらマーラの方を向いてビシッと指し示し、その問いかけに答えてくれた。

 

「この森には昔っからいたずら好きな妖精の話が伝わってるのよ。コビットと呼ばれるその子たちは、森に迷い込んだ人たちにイタズラを仕掛けては森の奥に人が近づかないようにしていた。」

 

「でも、今はどんどん森の奥に・・・。」

 

 マーラがマーベラスに問いかけるような眼差しを向ける。

 

「そこなのよねぇ。・・・新しいイタズラでも思いついたのかしら?」

 

「そんな笑い話で済めばいいけど。」

 

 ヒューラが森の奥を眺めて、少しあきれたように軽く目を閉じた。

 

「どちらにせよ。この奥に行けば答えがわかる。」

 

 ヴァイトはまた匂いをたどって歩き出した。

 

「何事も無ければ良いのだが・・・。」

 

 オルゲンが心配そうな表情をして空を見上げた。マーベラスが促すようにオルゲンの肩に手を回して、共に足を進めた。

 

 

 どれだけ歩いただろうか? 一向にブレナンに出くわす気配がない。

 

「ねぇー。本当にこっちで合ってるの~?」

 

 マーベラスがうんざりというように、両手を空に向かって突き上げて伸びをしながらヴァイトに向かって問いかけた。

 

「匂いの痕跡はこっちからするが、一向に差が縮まる気がしねぇ・・・。どんだけ早ぇんだ、あいつら。」

 

 ヴァイトは森の奥を目を細めて見てから、同意を求めるように肩をすぼめながらマーベラスを見た。マーベラスも軽く目を閉じて肩をすぼめてみせた。

 

「ネルセンどうしたのそれ? そんなのしてたっけ? 全然似合わないね。」

 

 マーベラスはネルセンのしている白金の腕輪を見てからかい始めた。

 

「そんな言い方ないだろ? 俺だって王都に居た頃はオシャレの一つや二つ・・・」

 

「ちょっとあれを見て!」

 

 ネルセンの言葉を遮ってヒューラが駆け出していった。『あ、ちょ!』と言ってネルセンもヒューラの後を追った。皆もそれに続いていく。

 ヒューラの後を追いかけていくと、派手に木や枝がへし折られ、地面を激しく踏み荒らされた跡が目の前に広がってきた。

 

「これは・・・どうしたんだ?」

 

 オルゲンが絞るような声でその光景を眺めている。

 

「仲間割れ?」

 

 マーベラスがみんなの顔を見回すように疑問を口にした。ヴァイトがへし折れた木をペタペタと触りながら、踏み荒らされて少し広くなった地面を険しい顔をして見つめ、クンクンと匂いを嗅いだ。

 

「兄様?」

 

 マーラがヴァイトに答えを促すように問いかける。ヴァイトは何も言わず、ドシンとその場に腰を下ろした。皆、固唾を呑んでヴァイトの言葉を待っている。

 

「どうやら何者かに襲われたみてぇだな。獣臭ぇ。」

 

 ヴァイトが人差し指で軽く鼻を弾いた。ネルセンが不思議そうな顔をしながらヴァイトに近づいてくる。

 

「妖精を襲う獣?」

 

「まだ妖精と決まったわけじゃねぇがな。」

 

「なんだか悪い予感しかしないんだけど?」

 

 ヒューラが両腕を抱えて身震いしながら、緑色の液体の付着した木を見て顔をしかめる。マーラが目を閉じて耳を澄ませている。

 

「精霊たちがざわついています。悪しきものがこの森に足を踏み入れたようです。」

 

 マーベラスがマーラの肩を掴んで真剣なまなざしで見つめてきた。

 

「兄さんは! 兄さんは無事なの!」

 

「わかりません。でも、ブレナンの血痕と姿が見えない所を見ると・・・恐らく無事なのでは?」

 

 困ったような顔をして、マーラがヴァイトに助けを求めるような視線を投げかける。

 

!?

 

ヴァイトの耳がピクリと反応した。その刹那、ヴァイトの大きな体がものすごいスピードで木陰へと消えて行った。

 

 

 

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