【第2章4話】

 

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前回のあらすじ

ミンシアが連れ去られたのは王国宰相の所だった。手を貸してほしいというゼメシスに無言で答えるミンシア。ゴットンの街へ入ったはいいが宿の見つからない一行。そこに声をかけてくるものが・・・。

 


突然自分たちにかけられた声に皆が振り向くと、そこにはマーベラスの姿があった。

「皆様、お困りかい?」

「君は確か・・・マーベラス。」

エリオスが記憶を確かめるようにゆっくりとマーベラスの名前を呼んだ。

「宿、ないんだろ? 今、冒険者がたくさん来ているからね。どう? うちに来る気になった?」

気さくに話しかけながら、マーベラスがその顔に満面の笑みを浮かべて、私達のことを順番に眺めてきた。この娘は本当にまっすぐな目をして相手のことを見つめてくる。きっと素直に育ってきたんだろうな。ふとブレナンの顔が頭をかすめはしたが、ここはマーベラスの申し出に素直に甘えておこうと思った。何より私達には選択肢がそれしか残されていなかった。

「すまない。そうしてもらえると助かる。」

ヴァイトがお礼を言いながら、頭を下げた。『お世話になります。』とみんなでマーベラスに感謝を告げて、さらにご機嫌になった彼女の後について、今日の宿へと行くことにした。歩くこと40分、ずいぶんと街の外れの方まで来たもんだ。『ここだよ』とマーベラスにぶっきらぼうに指し示されたのは、お世辞にも綺麗とは言い難い、少し寂れた木造の家だった。

「おかえりなさい!」

「ただいま。パッツイ。」

その寂れた家の扉が開いて、パッツイと呼ばれた小さな女の子が飛び出してきた。そしてマーベラスに向かって一直線に駆け寄ったかと思うと、その胸にわーっと飛び込んでがっしりと抱きついた。歳の頃は8歳くらいだろうか? マーベラスを見上げて、その腕の中の存在を確認すると『いらっしゃい。』と言って、こちらににっこりと可愛い笑顔を見せてペコリとお辞儀をした。その可愛らしい様子にネルセンが微笑を返す。皆の顔を一様に見回すと、マーベラスとヒューラの手を取り、『こっち』と手を引いて家の中へと連れて行ってくれた。ネルセンが心の中で『チッ。』と舌打ちをしたのはここだけの秘密である。入口でこちらを振り向いたマーベラスが『どうぞ上がって。』とみんなを促した。

「ただいまー。父さん、兄さん、連れてきたよー。」

マーベラスが良く通る声で部屋の奥へと声をかけた。

「良くおいでなさった。まあ、何もない所ですが、どうぞ腰を掛けてください。」

奥の部屋から姿を現したオルゲンがみんなの事ををねぎらってくれた。ブレナンは・・・姿が見えない。どうやらいないようだ。かなり心の準備をしてやってきたのだが、ホッとしたようなちょっと期待外れなような微妙な気持ちになった。

「ねー、ねー。みんなは冒険者さんなんでしょ?」

パッツイがつぶらな瞳をキラキラさせながらこちらを見つめている。好奇心のままに無邪気に目を輝かせているこのくらいの子供って何とも可愛いらしい。

「そうだね。パッツイは冒険者が好きなの?」

ネルセンが少女の疑問に答えながら、逆に質問を返した。パッツイはう~ん、う~んと唸って少し考えた後、『わかんない。』と言って、とびきりの笑顔を見せた。可愛い・・・癒される。ヴァイトの表情が緩み過ぎだ。ヤバいぞヴァイト、その顔は! 犯罪者一歩手前だ! ・・・きっと幼いころのマーラを思い出すのか、いつになく目元が優しい。みんなが無垢な少女の魅力にメロメロになっていると、ブレナンが食事を運んで来た。(あ、ブレナン居たんだ。)と皆が思ったが、パッツイの存在があれば、もうブレナンが居ようがどうでもよいと思える皆がいた。と思ったのもつかの間、『わぁー!』と言うブレナンの叫び声が聞こえたかと思うと、ヒューラの頭にスープがかかっていた・・・。これはマズイ、これはマズイぞ! ぷるぷるとヒューラの肩が静かに震えている。その静かさに呼応するように一瞬にしてその場の空気が凍り付いた。いや、ただ一人だけ、『あはははは、ごめんごめん』と明るく笑うブレナンを除いては・・・。

「フラッシュスパーク。」

皆が聞き取れるか取れないかくらいの小さな声でヒューラがつぶやいたと思ったら、ブレナンがビクッとしてそのままピクピクとその場に倒れこんだ。

(怖ぇー!)

誰も動けずに静寂な時間だけが刻々と過ぎて行く。オルゲンがおもむろに『これは大変申し訳ない。水浴びをして着替えでも・・・』と口火を開いた。無言のまま頷いたヒューラが奥の部屋へと消えていく・・・。その場にいる誰もが、この人だけは敵に回してはいけないと、記憶の引き出しに二度と消えないようにしっかりと刻みつけるのだった。ヒューラが水浴びして着替えている間、少しだけオルゲンと話をした。

「大丈夫か?」

そう言ってヴァイトはブレナンに目をやった。

「ああ、あの子は頑丈なだけが取り柄みたいなもんですから・・・。」

ハハハと笑いながら、オルゲンがマーラに助け起こされているブレナンを見つめている。エリオスがマーベラスとパッツイを見ながらふと湧いた疑問を口にした。

「気に触ったら申し訳ないが、母親はいないのですか?」

その質問にオルゲンの顔が曇った。これはしまったと思ったが、もう取り消せない。その空気を感じてオルゲンが『いやいや。』と手を横に振って見せたが、嫌なことを思い出させてしまったようだ。

「妻は・・・十年前に亡くしましてね。」

そう言ってオルゲンが少し寂しそうに遠くを見つめた。これは悪いことをしてしまった。エリオスが『すみません』と申し訳なさそうに身を縮ませるが、オルゲンはふと表情を緩ませて首を横に振った。

「十年前に起こった内戦の中、私達の住んでいた街も戦火に見舞われまして・・・。逃げ遅れたブレナンをかばって妻は・・・。」

オルゲンは、ブレナンを敷物の上に横たえているマーベラスとその様子を周りで覗き込んでいるパッツイを見つめながら、ふと瞼を閉じて妻の面影に想いを馳せているようだった。

「十年前というとあの子は・・・。」

そう言ってネルセンがパッツイを見た。オルゲンは愛おしそうにパッツイを見ながら語ってくれた。

「あの子とは血の繋がりがないんです。戦火を逃れて王都に行ったときに、城門のそばで泣き叫んでいるあの子を見つけて・・・。母親はすでに息をしていませんでしたが、幼いあの子にはそれが分からなかったんでしょうな。どうにも捨て置けなくて一緒に。」

「そうですか。」

ネルセンも、今は楽し気にマーベラスに話しかけているパッツイを見て少しいたたまれなくなった。そこにヒューラが着替えから戻ってきた。敷物の上で横たわっているブレナンを見てフンと鼻を鳴らして、まだ少しご立腹の様だ。少ししてブレナンが目を覚ましてから夕食となった。

 

 

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皆様の人生が笑顔の華で彩られますように(*^ー^)ノ