『今週いっぱいで(人工心肺を)外します。』

医師は静かにそう告げた。

それは、あと2日に迫っていた。


………。



先生…



今…



なんて言ったの?



今…



日本語を話しているの?



ちょっと…




何を言っているのか……。



話してる意味が…



理解できない…。



理解したくない。



今…



何が起こっているの?



今いるこの世界は…



あの日まで居た世界と同じなの?



嘘…だよね?



先生…。



大丈夫…だよね?




先生、お願い。

お願いだから、

大丈夫だって言って欲しい。


先生、お願い。

お願いだから、

ここが、現実の世界じゃないって…


お願いだから言って欲しい。



『先生、命…命だけは絶対…。絶対に、助けてください!』


初めて私は声を振り絞って医師にすがった。

でもーー

医師と目が合うことはなかった。



どれだけの恐怖を味わっているだろう…。


どれだけの寂しさに襲われているだろう…。



あんなに小さな身体で…。




どうしてこんな時に、

そばに居てあげることができないんだろう。




ICUから出たすぐのソファに崩れ落ちた。

震えが止まらなかった。

身体の感覚が、少しずつ遠のいていった。

外の世界は何も変わらず、

日差しの強い夏のままだった。



変わってしまったのは、

私の世界だけだった。



呆然として身動きが取れなかった。

視界はぼやけ、

今、

自分がどこを見ているのかも分からなくなった。


人工心肺を外す――



それは、命の終わりを意味する。



そしてその決定は、


親の許可によって、初めて実行される。



私はずっと、自分にムチを打ってきた。

私が母親なんだから、強くいないといけない。

私が母親なんだから、弱音を吐いちゃいけない。

私が母親なんだからーー

私が崩れてはいけない。



そうやって、

自分で自分を一生懸命奮い立たせてきたのに…

なんとかギリギリのところで保ってきたのに…


もう心は限界だと叫んでいて…

気がついたら夫の前で、

その想いは、決壊した濁流のように溢れ出した。