1/20
【特集】「天使禁猟区-東京クロノス-」1巻発売記念、子安武人インタビュー!

吉良朔夜への“激重感情”が止まらない子安「彼に一目惚れしたんです。演じたくて演じたくてしょうがなかった」

──────

天使禁猟区

懐かし過ぎる作品、でもリアルで知らない

今の子安さんだから伝わる熱のインタビューが素敵!
いいなぁ、いいっ!
声優として表現者として自信に溢れる姿がカッコ良い

さすが子安さんっ!としか言えない

──────

吉良先輩に一目惚れしたんです

今日は久しぶりに吉良のことを話せるので、うれしくてしょうがなくって! 

──ウキウキしてらっしゃいますね(笑)。実は、由貴香織里さんから子安さん宛にコメントを預かってまして。

お久しぶりです、その節は本当に大変お世話になりました。平素よりご活躍、見守らせて頂いております!
かつてのメディアミックスの折は子安さんなくして成功はなかったと思います。ありがとうございました!
昨日、息子に子安さんに声やって貰ってたと言ったら「めちゃくちゃすげぇ!」と言われたばかりでした!
時を超えて始まった新生「天使禁猟区」を読んで戴けるのなら、ご感想等きかせていただきたく……よろしくお願いします!

うわー、うれしい……! (噛み締めながら)いや、本当にありがたいですね。息子さんがいらっしゃるんだ。いくつくらいなんだろう? その息子さんにも認知されてるようでうれしいなあ、長年声優をやってきた甲斐がありますね。

──「天使禁猟区」はドラマCDが1998年から2001年にかけて全15巻、OVAが2000年に全3巻リリースされて、子安さんはそのどちらでも吉良朔夜を演じています。由貴さんもメディアミックスに関して「子安さんなくして成功はなかった」とまでおっしゃっていますね。

由貴さんにそう言っていただけるのは本当にうれしいですね。なんと言っても、僕は吉良先輩をやりたくてやりたくてしょうがなかったんですから。

子安武人が演じた吉良朔夜 / ルシファー。子安武人が演じた吉良朔夜 / ルシファー。

──吉良先輩を演じる前から「天使禁猟区」をご存知だったんですか?

もちろんですよ! そこから話しますか?(笑) 僕は中学生の頃から少女マンガがすごく好きで、けっこう読んでいた時期があって。白泉社さんとも縁があってラジオ(「子安武人の花ゆめ気分でLaLa party!」「子安★私市の花ゆめチックにLaLaしましょ」)でパーソナリティをやったりしてね。その頃に「天使禁猟区」も読んで、すごく面白いマンガだと思ったんですよ。いや、正直に言うと、マンガの面白さももちろんなんですけど吉良先輩に一目惚れしたんです。あまりにもカッコいいから(笑)。

とにかくうれしくて、じわーって涙が出そうでした

──吉良先輩への思いは後ほどたっぷりと聞かせてください。2000年に最終回を迎えた「天使禁猟区」ですが、2022年4月に続編の「天使禁猟区-東京クロノス-」がスタートしました。

「天使禁猟区-東京クロノス-」イラスト

「天使禁猟区-東京クロノス-」

無道刹那が再生した数十年後の東京に暮らす中2の叶久遠。彼の目には空が黒い文字に覆われて見え、人々の背中に時々羽が見える。人とは違う自分を忘れさせてくれる憧れの先輩、風護カリスに告白を決意した久遠だが……。「天使禁猟区-東京クロノス-」は花ゆめAiで連載中。

ネットのニュースで知ったんですよ。その情報が飛び込んできて最初は「嘘だろう?」と。「まさかあの『天禁』?」「続きなの? それともアナザー的な?」って。本当にびっくりしたんですが、「すごく読みたい!」と思いましたね。驚きとうれしさが同時に生まれて、自分が関わってきた「天禁」への思い出が走馬灯のように……いや、走馬灯だと死んじゃう前みたいだけど(笑)。そんな感じで「天禁」の記憶がフラッシュバックしました。

子安武人

子安武人

──「天使禁猟区-東京クロノス-」1巻を読んでの率直な感想を教えてください。

本当に、懐かしの「天使禁猟区」が帰ってきた!と思いました。時代に合わせたのか、由貴さんの絵柄が少し変わったのも印象的でしたね。「天使禁猟区」のときはヴィジュアル系バンドを2次元にしたような絵柄の印象がありましたが、「東京クロノス」では若干まろやかな感じになっていて。20年前の声優・子安と今の声優・子安が違うように、作家さんも変わっていくんだなと思いましたね。時代のニーズに合わせていくのはプロとしての仕事ですから。そして、風護先輩……かわいいですね。

──風護先輩を大好きな、主人公の久遠みたいです(笑)。

風護先輩のキャラいいですね。本当にいい……かわいい。2回言っちゃった(笑)。ちょっとツンとしててクールビューティで、久遠と今後どう絡んでいくのか気になります。

──第1話で、風護カリスは「天使禁猟区」に登場した四大天使の1人・ラファエルの転生後の姿なのではと示唆されていました。

元男でも全然いいですね。最近、“魂で愛していこうぜ月間”なんですよ。なので性別とか人種とかどうでもよくて、僕にとっては魂が大事です。

風護カリス

風護カリス

──第1話では同じく四大天使の1人・ミカエルも出てきて、「天禁」ファンは驚いたのではないでしょうか。

見知った奴が出てくるのは、心躍るというかワクワクしますよね。僕としては1巻の最後の最後に出てきた“彼”が……。彼が出てきた瞬間、もう本当にびっくりして。とにかくうれしくて、じわーって涙が出そうでした。

──その背後には“あの人”らしき人もいて……。

ねえ! いましたよね! もうこの先どうなるのよ!?って。たぶん、1巻まるごとプロローグなんですよ。最後に「よっ! 待ってました!」の真打が登場して、ここから面白さが加速していくんだと思います。

今のほうが吉良をうまく演じられる

──ドラマCDがリリースされたのはもう20年以上前のことになりますが、印象深いエピソードはありますか?

ドラマCDのほうがOVAより先に制作されたんですけど、オーディオドラマだから音声のみじゃないですか。今だったらボイスコミックみたいにマンガの絵に声をあてる動画もありますけど、当時はなかったから本当に音声だけ。つまり、僕の声だけで吉良を表現しないといけない。この声としゃべりが吉良じゃなくてはいけないっていうのをすごく意識してドラマCDの収録に臨みましたね。

──その後、「天禁」はOVAにもなって。

絵がついて、すごく感動しましたね。これに自分の声をあてさせてもらえるんだといううれしさがありました。OVAの吉良に初めて声をあてたときの感動はまだ覚えています。

子安武人

子安武人

──OVAでは刹那が実妹・紗羅との恋に苦しみ、有機天使アレクシエルの力を覚醒させる「物質界(アッシャー)編」が描かれました。原作の「物質界(アッシャー)編」を3話分のOVAにしているので、当然すべてのエピソードが映像化されているわけではないんですが、その中でも吉良先輩とお父さんのシーンはしっかりと描かれていましたね。

そうそう、お父さんとの確執もちゃんと映像化してくれて、演じ甲斐がありました。(DVDのパッケージのキャスト欄を見ながら)刹那役ののじけん(野島健児)、このときまだ本当に新人声優だったんだよね。懐かしいなあ。

──原作からのファンというと、演じる前からもう子安さんの中に確固とした“吉良像”みたいなものがあったんでしょうか?

ありました。皆さんもそれぞれ脳内に吉良のイメージがあると思うんですが、僕の中にもしっかり。そして、“僕が演じている吉良”のイメージもあったんです。それを声に出して表現する作業が楽しかったですね。自分が思い描いている吉良と、実際に自分が演じる吉良に差異があんまりなかった。思っていたことができてるという実感がありました。20年前なので、今の俺と比べたらつたないと思うけど、当時の俺としてはけっこうがんばった。

──今の子安さんが演じる吉良先輩、聴きたいですね。

今でもやりたいですね。解釈が変わったり、より深くなったりしてると思うので、もう一度昔の自分にチャレンジしたい気持ちがあります。

吉良と刹那。

吉良と刹那。

──表現者の方は過去作を振り返るときに「当時の表現は今の自分にはできない」とおっしゃるイメージがあるんですが、子安さんはちょっと違うんですね。

いや、僕もやっぱり当時の表現は当時にしかできないと思います。歳をとるといろんなことを経験するし解釈も深くなると思いますけど、それは分別臭くなったり余計なことまで考えてしまうことでもあって。直感的なことは若いときのほうが得意だと思う。でも、僕は今でも常にうまくなりたい気持ちが強くて、うまくなってる自負もあるんです。最初に吉良を演じたときから20年以上声優として努力を続けてきて、実力もついてきた。だからやっぱり、今のほうが吉良をうまく演じられる自信はあります。


吉良以外にはなんら興味がない(笑)。……でも加藤は好きだった

──子安さんは、吉良朔夜をどのようなキャラクターだと捉えていますか?

七支刀御魂剣(ナナツサヤミタマノツルギ)、そしてルシファーであるという超然的な本性を隠しているじゃないですか。刹那や父親に隠している後ろめたさを吉良は感じていて、葛藤もしている。それに事故で死んでしまった少年としての……つまり人間としての吉良朔夜という存在、そして彼が最期に願うほど大事にしているお父さんとの関係性は吉良を語るうえで欠かせないですね。吉良朔夜の人間らしさと本性の葛藤が本当に好きなんです。もうね、僕に言わせたら吉良はズルい。完全なズルキャラですよ!

──そのズルキャラというのは? 

カッコよすぎるんです! 

──あはは(笑)。

「ちょっとドジ」とかもなくて、ほぼほぼパーフェクトなカッコよさじゃないですか。

──おっしゃる通りですね。それに吉良の本性と人間らしさとの葛藤に、私を含めた当時の読者は悶えていたと思います。

カッコいい男が苦悩してて、カッコよくないわけがない(笑)。由貴さんが吉良にどういうものを背負わせたいのかありありとわかる。そこを汲み取ってお芝居ができなかったら、吉良の魅力は引き出せないんですよね。上っ面な芝居じゃだめなんです。表面的なカッコよさだけを演じていたら、吉良の内面は表現できない。このセリフにはこういう裏があるとか、実はこう思ってるとかを感じさせる芝居をするんだって思いながら、当時若輩だった僕は演じていました。

子安武人

子安武人

──本当に吉良がお好きなんですね。

20年前の当時、「僕より彼を理解している声優はいないだろう!」と思っていたんじゃないかな。ドラマCDになる前から絶対に吉良は僕が演じたかった。吉良のことを理解していないほかの声優が演じて吉良が潰れるくらいなら……どうせダメなら俺が演じて俺が潰すって(笑)。役者としてわがままなところがあったんですよね。でもそういう強い気持ちがあっても、制作サイドが僕に演じる許可をくれないとそもそも演じられないので、吉良役をやることができて本当にうれしかったです。吉良を任せてもいい役者であれたということだから。

──そこまでの思いを……。ちなみに吉良以外に好きなキャラクターはいますか?

まず大前提として、「天使禁猟区」というマンガ自体は大好きなんですけど、キャラクターとしては吉良以外にはなんら興味がない(笑)。……でも加藤は好きだった。

──加藤故、いいですよね。

加藤だけは本当に……なんだろうな、ちょっと嫉妬しちゃうくらいいい役なんですよね。何回も言いますけど、僕は吉良が大好きで興味がほぼ彼に集中してるんです。ただ、目の端っこに加藤がいるんですよ。若干感じるんです、彼から何かを……。

──何か?

「加藤を演じたら面白いだろうな」っていう役者としての予感かもしれません。絶対由貴さんも加藤が好きだと思う。マンガを読んでてもヒシヒシ伝わってきました。

──父親から「死にやすいと思った」という理由で“故(ゆえ)”と名付けられた、というエピソードが強烈でしたよね。最初は自分本位なところが目立つ加藤ですが、物語が進むにつれてどんどん好きになっていった読者も多かったと思います。

「天使禁猟区」より、加藤の過去が明かされるシーン。

「天使禁猟区」より、加藤の過去が明かされるシーン。

いやー、モブっぽく出てきたのにまさかあんなに重要な役になるとはね。いろいろ重なって「重要なキャラに育ってしまった」って面もあるのかもしれないけど、結局は由貴さんが“重要なキャラにした”んですよね。物語を作る人が一番楽しいところなんじゃないかなあ。由貴さんも加藤を描くのが楽しかったんじゃないかと思います。でもやっぱり僕は吉良を演じたいですね。

──そこまで吉良に惹かれる理由はなんでしょう?

カッコいいからですよ。それ以外ない。男としての色気があって、強さもある。僕が根本的に役者・声優として演じたいのはカッコいい男なんです。面白いキャラ、コメディリリーフ的なキャラもけっこう演じますし、それも楽しいんですが、一番演じたいのは男としての魅力があるカッコいいキャラクターなんです。ギャグとかパロディ系のキャラは……大変なんです(笑)。

──エネルギーを使いそうですよね。

まさに。もともとそんなにはっちゃけてる人間でもなく意外に真面目なので、お調子者を演じるときは本当の自分という枷を外す必要があります(笑)。でも吉良みたいなキャラはスッと入っていける。自分が憧れる男性像が自分の中にあって、常にそうありたいって思ってるから、そういう人物を引っ張り出せばいいんです。吉良みたいなカッコいい男がいろんな作品にいて、それをすべて僕が演じることを許されるなら、僕は本当に満ち足りますね。

「東京クロノス」を読まない理由はない

──子安さんから見て、由貴香織里作品の魅力はどこにありますか?

少年マンガ、少女マンガというジャンルを超えて、独自の世界観を作り出してるところです。「天使禁猟区」も「伯爵カイン」シリーズも少女マンガ誌で連載されていましたが、男性の僕が読んでも面白い。特に「天使禁猟区」は偉大なるマンガ家たちのSF作品に引けを取らないテーマ性があって、由貴さんは天才の1人だと思います。天使や悪魔が出てくるので、もしかしたら“厨二っぽい”なんて言う若い人がいるかもしれないんですが、そういう言葉で片付くような作品ではないんですよね。連載当時は「厨二病」みたいな言葉が人口に膾炙してなかったですし。そういう時代背景とともに深く読み込んでほしいです。

子安武人

子安武人

──天使の造形もすごくスタイリッシュでしたよね。一般的なふわふわした白い羽の優しいイメージではなくて、禍々しいコードにつながれた機械仕掛けのイメージで描かれてて。天使を描いてるのに、どちらかというとインモラルで退廃的な雰囲気でした。

そこも本当にカッコよくて、僕の好みにぴったりでした。あと由貴作品といえば、言葉の紡ぎ方。「東京クロノス」もモノローグに由貴さんらしさを感じて。

──「私を連れて逃げていってよ久遠 外の世界へ」みたいな。

「天使禁猟区-東京クロノス-」より。

「天使禁猟区-東京クロノス-」より。

ああ……由貴さんだなって。やっぱり独特の感性なんですよね。心情を吐露していく感じが素敵です。「天使禁猟区」を知っている人は、あの続きなので「東京クロノス」をぜひ読んでほしい。読まない理由はないですね。

──「東京クロノス」は「天使禁猟区」の最終回後の世界が描かれているので、読者だった人はスッと入っていけると思います。逆に「東京クロノス」で「天使禁猟区」に初めて触れる人にもおすすめですか?

そういう方が読むのを迷ってるのは理解できますね。ただ、僕に言わせたら「迷ったら読めばいいじゃん」です(笑)。趣味や好みは個人個人のことなので、自分で読んで判断すべきかなと。「東京クロノス」を面白いと思ったら、「天使禁猟区」を読むとよりハマれると思いますよ。