『宇宙犬マチ』 第10回! | ハッピーなマチ日記+セイ

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元気すぎるヨークシャーテリアの兄弟の日々を綴ったブログでしたが、ハッピーもマチも虹の橋に旅立ちました。そしてセイくんが我が家にやって来ました!

いつも『宇宙犬マチ』を

お読み頂き、有難うございます。

第10回をアップします。

今回もお読み頂けると嬉しいです(^.^)

カッピー

 

『宇宙犬マチ』 第10回

 

十四 改革 マチ

一年が経った。
二十九人の仲間は英知を絞り、力を合わせて人間の改革法に挑んだ。共通の思いは地球上の人と生き物と自然を愛しているということ。手法は見つかりつつあった。
しかし、いきなり大変な事が起きた。世界中に強力な新型ウイルスが、蔓延し人が死に始めた。歴史的にみれば、各国がそろって行動し、新型ウイルスに立ち向かうはずなのに、各国のトップが利権を競い合い、その発生原因をなすり付けるという、醜い争いに発展していった。
ますます、国と国、人と人、人種間に不信と諍いが起き、しまいにはデモが始まり、小さな紛争やクーデターやテロ、しまいには戦争まで起きてしまった。キナ臭い状況がすべての地球上に広がり、宇宙への脅威が高まってきてしまったんだ。宇宙司令からは、状況が悪くなった場合、途中で対策を放棄し、地球を消してしまうように、と指示されていた。
早く対処しないと、とんでもないことになる。仲間も不安に陥っていた。
ほぼ人の欲望をコントロールする手法は見つかっていた。ある成分に絞った超高調波を聞かせればいいことが明らかになっていたんだ
。見出した超高調波を、SNSをはじめあらゆるメディアに乗っけて、発信し世界中にバラまけばいいはず。
同時に僕たちは地球規模で影響を与えている新型ウイルスを取り除こう考えていた。これはさほど難しいことではなかった。

綿密な準備が終わり、あと一か月で実行できるという時に問題が起きた。イタリアの仲間に危機が迫ったのだ。彼はドーベルマンという大型犬に乗り移ったので、すでに十歳を超え、寿命が近づいていたのだ。
宿犬が死ぬ前に、抜け出して宇宙に戻らないと、仲間自体が一緒に消えてしまうことになる。
僕は、宇宙司令にメッセージを送り、嘆願した。彼はしばらくして、無事還っていった。
彼は僕の片腕のような重要な存在だった。彼を失ってしまったのは、大きな痛手であった。『人類改革計画』の実施まであと七日というところまで来ていたのに……。
しかし少しでも早く実行しないと、次々に各地の起点となる宿犬たちが寿命を迎えてしまいそうな状況でもあった。
ようやく超高周波の発信準備が整った。この間、宿犬の問題から九人の仲間が宇宙に還っていった。いずれも地球で世話をしてくれた親切な人々のことに思いを馳せながら……。今までの調査では、偶発的な事故や災害で命を失った事例はあったが、このような形で命を失わせてはいけないんだ。
その九人もなんとかギリギリのところで宇宙に戻ることができて良かった。
地球に残るのは二十人ほどの仲間。彼らと力を合わせて、人間の欲望を失わせる“音”をあらゆるメディアに乗せて発信した。
発信を終えると、達成感と大きな疲労感と喪失感が入り混じった複雑な感覚を覚えた。
あとは効果を確認しながら、地球の研究を続けていくことになる。

地球は本当に宇宙全体を見渡しても、稀有な存在の星だ。生き物の知性はゆっくりと進化し、無数の生き物は多様で、複雑に絡みあって共存している。連鎖というのだろう。突き詰めていくと何ひとつとして関わりのないものは見当たらない。
だからこそ、研究を続けることはとても興味深いことであり、必ず宇宙全体のためになることだと確信している。ある意味、地球は宇宙の起源の塊かもしれない。研究は『人類改革計画』を実行するより、はるかに喜びもある。例の音を発信後は、無理をしない範囲で仲間と交信して研究データを集め、分析に没頭した。
夜中ずっと起きていることもあり、昼は寝ていることが多くなった。おとうさんとおかあさんは心配をしてくれる。僕は、なるべく心配をかけないようにふるまっていたが、二人の優しさはとても嬉しい。
おとうさんもおかあさんも、あの“音”を聴いていた。でも、まったく変わった感じはしなかった。その後よく調べてみると、思考と行動が変わる人がほとんどだけど、ほとんど変わらない人たちがいる。それがどうしてなのかは、わからないけれど、何らかの要因で欲望を制御している人たちがいることは、不思議でならない。

<欲>というのは、人間の本性ではないのだろうか? また人に関する謎が増えた。しかし、身近な二人が変わらなかったころで、その効用に心配も生じたものの、僕にとって安堵をもたらしてくれたし、当然のことだとも思えていた。
きっと、世界中の仲間を受け入れている家族たちも、変わらなかったのだと思う。僕たちの使命を最初から理解してくれた何者かが、<欲>を持たない素晴らしい人たちに預けてくれたのだろうか?
ひょっとして人間が敬う“神様”とか“仏様”という超越した存在がいるのかもしれない。
なんと非科学的な……と思い、僕は愉快な気持ちになった。
それぞれの家族のことを聞こうと、夜中に仲間たちに交信を始めると、同じような環境にあり、同じような予測を持っている者が多い。彼らの家族はいずれもほとんど変化が見られなかったのだ。なんてこと!

十五 効果 マチ

“音”を発信して、一年近くが経った。僕たちの創り出したものの効果は想像以上のものだった。この一年の間で、ほとんどの戦争が止まり、国と国の諍いもほとんど下火になった。
多くの国は共同し平和条約を結び、未だ解決していない未知のウイルスや難病に立ち向かうようになった。途上国で爆発的な拡大を続けていたウイルス禍は、共同で開発されたことになる有効なワクチンにより抑え込まれてきた。実はこのワクチンの原型は実は僕らが作り発信したものだったんだけどね。そして、僕たちは特効薬の開発にも力を注いでいた。
世界の全ての地域で、あと一年もあれば今まで通りの普通の生活に戻れるだろう。
同時に進められていた地球の研究もかなりの成果が出てきていた。宇宙にとっての有効なデータも集まり、地球の存在がなくてはならない唯一無二のものという証明もできるくらいの状況になっていた。
宇宙にとって、“悪”から“善”に変わっていく地球。それを手助けし、見届けてのいられるのは、僕たちにとって大きな誇りであった。
成果が出始めたことで、多くの仲間が地球から離れる許可をもらい、宇宙に還っていった。きっと今ごろは次の星に派遣されていることだろう。
全てが順調にいっていたし、おとうさんたちと過ごす日々は楽しく喜びに満ち満ちたものだった。


Ⅶ 平和 ヒロキ

 最近、いきなりマチの体調がすぐれない日が増えてきた。調子の良い時と悪い時が周期的にやってくる。ハイテンションな時があると思うと、ほぼ一日中なんとなくダルそうに寝ていることもある。どんな時でもあった食べ物への執着にもバラツキが出てきて、食べ残しが多くなったり、とても好きだったジャーキーもいきなり食べなくなったりするようになってきた。もう十二歳を過ぎ、人間の年齢に換算すると七十歳近くなっているから、仕方のないことかもしれないが、どうしょうもなく心配になってしまう。
 年始に定期健診は毎年やっていたが、膵臓の数値を示すリパーゼの値が極端に高くなり、ついに薬を常用するようにもなってしまった。続いて心臓肥大による弁膜症を発症し、いきなり呼吸が荒くなってしまった時にはあせって、すぐに病院に駆けつけた。急に亡くなってしまったハッピーのトラウマが蘇った。それも薬を飲むことで安定したが、腹下しを頻繁に繰り返すようにもなっていった。
 まさに満身創痍といった感じだったが、マチはいたってケロッとしていて、いつもと変わらない感じだ。だが、やはり寝ている時間が長くなっていた。特に苦手な夏になると、すぐにハアハアとなってしまい息が荒くなってしまうので、無理はできなくなってしまった。もう一度あのリゾートホテルに行きたいと考えていたのだが……。
 いまもマチは人間並みのいびきをかきながら、眠っている。朝はやっと起きて朝ご飯と薬を済ませ、また寝てしまう。こんなことが続いていた。
 ちょうどこの時、新しいウイルスの感染が増加し、同時に世界中で不思議な現象が起きだした。いきなり蔓延していた自己主義、利己主義、利権主義といった欲ばりな人間が、無欲になり出したのだ。そのおかげで世界のあちこちではびこっていた諍いや侵略戦争が急激に鎮火に向かっていった。いつもどこかで起きていた戦争も休止され、紛争もテロもその後一年も経たないうちになくなっていったのだ。今まで多くの人々が平和を願って活動をしても、一向に戦争や大小含めての諍いがなくならなかったのに、いきなり人類は平和への道を歩みだしたのだ。
 いったい何が起こったのか? 全くわからない。だが身近な人を見ていても利己主義を主張していた人間が無気力になり、意欲が消えていった。原因はわからない。世界の人々が、人種や性別、階級、宗教の壁を超えて共存の道を歩み、お互いを尊重する理想郷の姿がいきなり見え始めたのである。
 二〇二五年になり、世界の人々が手と手を取り合って共存を果たしつつあるころ、ずっと疲弊していたマチはひと息ついた安らかな顔つきになっていた。まるで、彼が望んだ世界になって安心したかのような感じを醸し出してきた。食欲も戻り、従来のマイペースなマチにもどったようであった。
 戦争や紛争、あらゆる差別さえなくなれば、あとは気候変動問題、貧困問題、人種問題、食料問題などに、世界の叡智を集めて取り組めばいいのだ。ゆっくりとしたペースかもしれないが、いずれは解決できるだろう。そんな、希望に満ちた報道ばかりが、世界を飛び交い、僕も希望で胸がいっぱいになっていた。新型の殺人ウイルスも発生したが、それも、人類が協力して立ち向かって、偶然ワクチンと特効薬が見出され、終息した。

(以降、1月17日掲載予定の第11回に続く)