入院中のこと | ハーフの赤ちゃん

入院中のこと

     

            生後2日目の娘

 

 

アメリカでは通常、産後の母子の健康に特に問題がなければ、出産から2日後に退院することになっている。これは病気で入院しているわけではないので、必要最低限の日数だけ入院する、というアメリカらしい合理的な考えによるもの。正直、病院嫌いで、慣れないベッドに横たわっているだけで気分は病人になってしまう私にとっては、早く退院できるのはかえって好都合だった。 

2日間の入院中、やらなければならないことがいくつかあった。 子供の名前を決めること、赤ちゃんの聴力の検査、黄疸の有無を調べる血液検査、赤ちゃんのお世話の仕方(オムツの替え方、授乳の仕方など)を看護婦さんにご教授いただくこと、産後の子宮の状態の確認などだ。

子供の名付けは退院する日の朝まで迷って、最後に『えいっ、これだ!』という感じで決めてしまった。 子供のファーストネームは生まれる前から既に決めていたのだが、ミドルネームにしようとしていた日本名でかなり迷ってしまった。 そもそも、アメリカでは夫のアイリッシュの姓を名乗り、日本の戸籍上では私の旧姓のままになっているので、両方の姓に合う名前を付けるのにてこずってしまったわけだ。 入院する前に、3つの候補を紙にプリントして持っていったのだが、そのうちの2つの候補でi意見が分かれてしまった。 そもそも夫がミドルネームは思いっきり日本的な名前にしたいと言い出したから迷ってしまったのだ。 私としては日本語でも英語でも通用する名前にしたかったのだが、将来的に日本に永住することにした場合も考え、日本人らしい名前にすることにした。 たかが名前とはいえ、一生ついて回ると思うと下手な名前は付けられないものだ。

入院中、ある看護婦が娘の顔を見てこんなことを言っていた。

ナース: あら、ちょっと黄疸の気があるわね~。 そんな時は・・・ 窓際に置いていっぱい日光浴をさせるといいのよ。 毎日午前中は窓際に置いて、日光浴をさせると黄色が薄くなっていくからやってみて。 

ふんふん、となんと無しに聞いていたが、よく考えてみると観葉植物の育て方でも聞いているかのようでちょっと笑ってしまった。 幸い、その後の血液検査の結果は黄疸の症状も心配するほど数値も高くなく、 1週間くらい日光浴をさせれば時期治るとのことだった。 半分日本人の血を引いているとはいえ、肌の色も髪の色も夫の白人の血を受け継いでいるので、黄疸の症状もかなり軽かったようだ。 

2日間の入院で一番辛かったのは授乳の時間。 娘は2300gととても小柄で生まれてきたので、口も小さく乳首をうまく吸うことができず、また私にとっても初めての授乳でどうやったらうまくできるのか分からず、とにかくフラストレーションのたまるひと時だった。 そんな時、何人かの看護婦が次から次へと入って来ては、いろいろと授乳方法を教えていくのだが、看護婦によって方針が全然違っていて、どの看護婦の意見を聞き入れればいいのか本当に困ってしまった。 とある看護婦は、『最初はなかなかでないもんだから焦らなくても大丈夫、そのうち自然と出るようになるわよ。』 と言っているかと思えば、別のナースは『母乳を赤ちゃんに飲ませないと栄養失調になるわよ。 母乳から直接飲ませられないなら搾乳機で出しちゃいなさい。 母乳が出るようになるまではミルクを与えるべきね。』 という始末。 乳首の先を持って、赤ちゃんの口に含ませる動作も看護婦によって全然違っていて、中には無理やり赤ちゃんの口に押し込めようとするナースもいたりして本当にびっくりしてしまった。 日本では完全母乳で育てるのが美徳、という傾向があるように思うが、アメリカでは完全に母乳だけで育てているお母さんの方が少ないように思う。 働くお母さんが多いのと、授乳の時間に縛られて自分の時間が無くなる上、乳首をかまれて痛い思いをするなら、ミルクを与えた方が楽というアメリカ人ならではの風習なのかもしれない。

そうこうして、あっという間に2日間の入院も終わり、とうとう娘を連れて自宅に帰る日がやってきた。 カーシートも用意してあるし、後はお世話になったナースにご挨拶をして帰ろう、と思っていた矢先、担当ナースから思いもよらないことを言われまたまた驚いてしまった。 なんと病室から車に乗せるまで病院側のエスコートが車椅子を押して私と赤ちゃんを連れて行くというのだ。 私は産後の回復も驚くほど早く、もちろん一人で普通に歩けるし、赤ちゃん一人抱いていてもかなり余裕で歩けるというのに・・・だ。 きっと、廊下を歩いていて滑って転んでもしものことがあったら病院側の責任になるからなのだろう。 (聞いてみたわけではないが、多分本当。)

こうして病院のエスコートに車椅子を押してもらい、無事入院生活におさらばした私たち親子なのでした。