●孫の貯金1540万円流用、祖母ら3人に有罪判決 | ニュースで法学

●孫の貯金1540万円流用、祖母ら3人に有罪判決

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孫の貯金1540万円流用、祖母ら3人に有罪判決

 孫の少年(15)の貯金口座から現金1540万円を流用したとして、業務上横領罪に問われた祖母で後見人だった福島市大森、ホテル従業員山口たかの被告(72)ら3人の判決が25日、福島地裁であった。

 大沢広裁判官は「後見人という地位を利用した身勝手な犯行」とし、たかの被告に懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡した。

 共謀したとして、少年のおじの同市郷野目、会社員山口博幸(47)に懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)、博幸被告の妻、京子被告(49)には懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)が言い渡された。

 裁判では、直系血族や配偶者らの間で起きた業務上横領や窃盗などの財産犯罪で刑が免除される「親族相盗」が、直系血族の後見人にも適用されるかが争われた。判決では「親族間に規律をゆだねることが望ましいとする配慮が働かない場合は、親族相盗を適用すべきではない」と判断。たかの被告は、財産管理にあたる未成年後見人として選任した福島家裁との信任関係を裏切ったとして、業務上横領罪が成立するとした。

(読売新聞) - 10月25日20時9分更新

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061025-00000413-yom-soci より


未成年後見人というのは、未成年者に親権者がいない場合又は親権者が財産管理権をもたない場合に、未成年者を監護教育し又はその財産を管理する者である。民法838条1号に規定がある。


おそらく、「孫の少年(15)」のご両親がすでに死亡していて、親権を行うものがいなくなったので、親族が福島家庭裁判所に未成年後見人の選任の請求をして、山口たかの被告(正確には「被告人」であるが記事に合わせてこう呼称する)が未成年後見人に選ばれたのだろう(民法840条参照)。未成年後見人は未成年被後見人(記事でいえば「孫の少年(15)」である)の身上を監護し、財産の管理を行う。そして、財産の管理権を行使するに当たって、未成年後見人は「善良な管理者の注意義務」を負う。


さて、この事件では裁判で「親族間の犯罪に関する特例」の適用の有無が争われている。刑法244条が規定する。


刑法244条
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、235条の2の罪又はこれらの罪の未遂を犯した者は、その刑を免除する。
・・・以下略


この規定を業務上横領罪に関する255条が準用しているから、業務上横領罪についても親族間で行われた場合には刑を免除される。本件では、行為者であるたかの被告は「孫の少年(15)」の直系血族であり、244条の適用があるはずである。しかし、判決は適用を認めなかった。これはなぜだろうか。


これを考えるにあたっては、なぜ244条のような規定が設けられているのかについて検討する必要がある。親族間でも窃盗は窃盗、横領は横領だろうと考えられるわけであるが、なぜ刑法はそのような場合に刑を免除するのか。


この規定の根拠は「法律は家庭に入らない」という思想にある。つまり、親族間で犯された財産に関する犯罪に対しては、国家が積極的に干渉するよりも、親族間の処分に委ねる方が親族間の秩序を維持させる上で適当だと解されているのである。「身内のことは身内で処理しろ」ということである。


とすると、親族間の処分に委ねると親族間の秩序維持にとって望ましくないような場合には、たとえ親族間であっても244条の適用はないということになるだろう。判決も「親族間に規律をゆだねることが望ましいとする配慮が働かない場合は、親族相盗を適用すべきではない」としている。


では、この事件は「親族間に規律をゆだねることが望ましいとする配慮が働かない場合」に該当するのだろうか。


たかの被告は家庭裁判所によって選任された未成年後見人である。未成年後見人というのは、先に述べたように、未成年被後見人の財産を管理する権限を与えられた者である。他人の財産を管理するわけであるから、いい加減な者には任せられない。いい加減な者に任せると孫の財産が食い荒らされてしまう。だからこそ親族間で勝手に決めるのではなく、裁判所が誰に任せるのが妥当かを判断して信頼に足りる人間を選定するのである(注1)。家庭裁判所は「たかの被告であればきちっと財産の管理を行ってくれるだろう」と信頼したからこそ、未成年後見に選任したわけである。そのような信頼を受けてたかの被告は未成年後見になったわけである。


このように考えると、親亡き後の「孫の少年(15)」の財産の管理をどうするか、その管理を誰に任せるのかという問題は親族間で処理すれば足りるというものではなくて、国家が積極的に関与して後見的に決定すべきものということができるだろう。つまり、この事件は「親族間に規律をゆだねることが望ましいとする配慮が働かない場合」にあたるということができるのである。


とまぁこういうわけで裁判所は244条の適用を認めなかったものと考えられるわけである。



(注1) 未成年後見人の指定は民法839条1項で、最後に親権を行う者も遺言によってすることができる。この場合には裁判所の関与はない。とすると、244条の適用があるということになるのだろうか。記事の事件では家庭裁判所が関与していたから244条の適用なしと言いやすかった。では、関与がない場合にはどうなるのだろうか。難しい問題である。